BABYMETAL サマソニ2017東京 ライブ レポート

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1.

人間の心には、互いに矛盾したふたつの感情がある。
誰でも他人の不幸に同情しないものはない。
ところが、その不幸を切り抜けてよくなると、なんとなく物足りなくて、
少し誇張して言えば、もう一度同じ不幸に陥れてみたいような気持になる。

 

海浜幕張に向かう電車の中。
曇天の空模様を眺めながら、数ヵ月前に少しばかり逡巡したことを、ふと考える。
仮に東京だけの参戦で、果たして満足できるだろうか――。
僕は小さく首を振り、それから、フッと息を吐きながら口元に納得の微笑を湛えた。
答えはやはり「否」。きっと満足はできずにいたはずだ。
大阪公演を観に行った人たちに「良かったね」と笑顔で言葉を放ちつつ、
胸の裡では「僕も行きたかったな」と小さな嫉妬の炎を燃やしていたに違いない。

 

冒頭の芥川龍之介の言葉は、矛盾したふたつの感情を表す一つの例である。
ちなみにこの場合のふたつの感情とは以下を指す。
「他人の不幸に対する同情心と、他人が不幸を切り抜けた時に感じる悪意や敵意」

 

僕の場合は、単純に表に出さない嫉妬でしかないのだが、1日だけの参戦を想定したとき、
過去、選択ミスをしたときに抱えた負の感情が、深い悔恨といっしょに、心の中へ入ってきた。
だから東京のチケットを買った後、すぐに思い直して大阪のチケットも購入した。
そのことに対する後悔は微塵もない。
チケットが取れないのであれば仕方がないが、BABYMETALは、見れる分は観に行く。
明白に意識することはあまりないが、それは今や、僕の一生を貫いている欲望である。

 

昨日の深夜に帰京したせいか、かなり寝不足ではあったけれど、心は随分と穏やかだった。
BABYMETALのライブにはこれまで随分通ってきているにもかかわらず、
やはりそこは屋外の夏フェス、昨日の盛り上がりも瞼の裏に焼き付いているから、
電車に揺られている段階からウキウキ気分で、それはもう夢見心地だった。
巨大なマリンスタジアムが満員になる様子を想像しては含み笑いをする。
向かいの席に座る男の子が、こちらと目が合うと速攻で見て見ぬ振りをする。
やがて電車が最寄駅に到着すると、僕は真っ直ぐにメインステージの球場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

2.

 

FOO FIGHTERS のTシャツをまだ購入していなかったから、会場に着くなり物販の列に並んた。
ROYAL BLOOD の2枚目のTシャツと合わせて無事にそれを購入すると、
その後は荷物をクロークに預け、会場であるマリンスタジアムの階段を上っていった。
上から辺りをぐるりと見渡すと、四方から賑やかな音楽が聞こえてきた。

 

 

 

午前11時となり、1組目の THE STRUTS がライブを始める。
1曲目の「Put Your Hands Up」を聴くなり僕はすぐさま彼らの虜になった。
彼らのサウンドは70年代のブリティッシュロックを踏襲しているようで、それがまず気に入った。
そしてなにより驚いたのが、ヴォーカルのルーク・スピラーのルックスや歌い方、雰囲気が、
僕にとって唯一無二のヴォーカリストであるフレディー・マーキュリーに似ていることだった。

 

 

 

「Could Have Been Me」「One Night Only」「Put Your Money on Me」とライブが続いていくと、
より彼はフレディーにしか見えなくなってくる。が、ちゃんとルークの個性もしっかり出ている。
「フレディーに似ている」という触れ込みのバンドはこれまでにも幾つか存在したけれど、
このルーク・スピラーは、歌声を聴いて “ あ、これは本物だ ” と直感的に思わせてくれた。
――ったく、これだからフェス巡りは止められないんだよ。
これからもこのバンドのことは追っていこう。
体を揺らして最後の「Where Did She Go」を聴きながら、僕はそう胸に誓ったのだった。

 

 

 

大阪で彼らのライブは観ていなかったので、今日は午前中から大収穫だった。
僕はマリンスタジアムを一旦出ると、爽やかな気分のまま BEACH STAGE へ向かった。
過去に一度も行ったことがなかったので、少しだけ覗いてみようという思いに駆られたからだ。
やがて砂浜に着くと、ステージでは、シシノオドシがライブをやっている最中だった。
辺り一面、気持ちの良い風が吹いている。曇り空なのが少しばかり残念だった。

 

 

 

その後はまたマリンスタジアムへ戻り、Circa Waves を観賞した。
今年発売のニューアルバムのリードシングル「Wake Up」でライブが始まる。
THE STRUTS 同様、彼らも新鋭のUKロックバンドで、
「Fossils」「Stuck in My Teeth」とアップビートな曲が続いてライブは盛り上がっていくが、
多くの観衆、厳密に言えば、多くのメイトの視線を集めたのは、
リーダーでヴォーカルのキエラン・シュッダルではなくドラマーのコリン・ジョーンズだった。

 

 

 

彼は大阪会場に続き、東京でもBABYMETALのフェスTEEを着ていた。
おそらくは何着か持っているのだろう。
彼の姿がビジョンに映るたびに、目の前にいる、BABYMETALのTシャツを着た若い女性が、
嬉しそうに指を差し、そして記念に写真に収めている。
かくいう僕も写真を撮り、彼らのライブを最後まで満喫した。

 

 

 

それから僕は、お昼ご飯の焼きそばを購入するとスタンドの方へ移動した。
食べながら、 INABA/SALAS のショーを観る。
セットリストは昨日と同じようだが、時間が5分伸びた分、
最後に「TROPHY」を披露してライブは終了となった。
それにしても観客の少なさに驚く。昨日の大阪の方がまだ多かった印象だ。

 

 

 

INABA/SALAS のライブが終わると僕はまた会場を出る。
そしてしばらくの間タイムテーブルを眺め、唸る。
MOUNTAIN STAGE の RICK ASTLEY、SONIC STAGE の PENNY WISE と観て回りたいが、
悩んだ挙句、昨日に続いてメインステージに留まることにした。
近隣の ISLAND STAGE でライブを行っている Wicked Aura が楽しそうだったので、
僕はかき氷を食べながら、しばし彼らの陽気なサウンドを堪能した。

 

 

 

その後は昨日に引き続き、 ALL TIME LOW と ROYAL BLOOD を続けて観戦。
ニューシングル「Last Young Renegade」で ALL TIME LOW のライブが始まる。
2年前もそうだったが、やはり彼らのライブに集まる客層は女性が多い。
もしかしたらワンオク経由でファンになった方も少なからずいるのかもしれない。
(これまでに何度も対バンやツアーを一緒に回ったりしている)
そしてライブは「Weightless」「Lost In Stereo」と尻上がりに盛り上がっていき、
昨日同様、彼らの代表曲である「Dear Maria, Count Me In」で熱いショーを締めくくった。

 

 

 

少しのインターバル後、「Where Are You Now?」で ROYAL BLOOD のライブが始まる。
彼らの音楽は何度聴いても良い。
デュオなのに圧倒的なグルーヴ感。安心して楽器の音に身を委ねられる。
ドラムのベンは今日も独特な存在感をステージ上で放っていて、
マイクの前にしばらく立ったまま溜めに溜めると一言「コニチワ!」と叫んで喝采を浴びた。
その後も新譜から「I Only Lie When I Love You」、旧譜から「Figure It Out」等を披露し、
持続的にライブを盛り上げ、最後はデビュー曲「Out Of The Black」でライブを締めた。

 

 

 

その後は水分補給のために再び場外へ。
球場外壁のミニステージで日本のセクシーグループがショーをやっていたので眺める。
すると、その近くを走っているDJカーが、突如 Red Hot Chili Peppers の
「Give It Away」を流したものだから、僕は車の前にまで行ってしばらく一緒に並走した。
十分に満喫した後、水のペットボトルを片手に再びマリンステージへ向かった。

 

 

 

続く MAN WITH A MISSION のスタートに合わせ、僕は前の方へ移動する。
今日の一発目は「database」。あちこちでモッシュが起こり、場内は一気にヒートアップする。
その後の選曲は先日と同じだったがセトリは少し替えてきた。
そして中盤の「Get Off of My Way」に差し掛かったところで、僕はそれにはたと気づく。

 

 

 

このガウボーイが誰なのかは知らないが、彼は一気に周りの注目を集めた。
そしてサークルが形成されると、彼を中心としたモッシュが何度も発生した。
昨日のパンダくんといい、被り物をしている人はこの暑い中よくやるなあと感心する。
そして今日は最後に持ってきた「FLY AGAIN」でピットの多くの人が大きく両手を揺らし、
MAN WITH A MISSION のライブは大盛況のもと終了となった。

 

ここにきてようやく、少しだけだが足にきた。
2日連続の参戦で動きっぱなしなので、こればかりは致し方ない。
それでもまだ元気はあるので、僕は若いガウラーたちと入れ替わりながら少しだけ前に進む。
そしてモッシュピットになりそうな位置で立ち止まった。
先日のライブは最後の最後に少しだけ肝を冷やしたが、今日は何のトラブルもなく、
鉄壁のライブパフォーマンスで、晴れ舞台をしっかりと完遂してほしい。
僕は幾ばくか父兄の心境にもなって、その時が訪れるのを静かに待ち続けた。

 

SUMMER SONIC のメインステージといえばやはりこのマリンスタジアムだ。
サマソニの象徴と言っても過言ではないように思う。
そして本日、BABYMETALが遂にこのスタジアムのステージに立つ。
それもトリの FOO FIGHTERS の1つ前、準ヘッドライナーとして。
周囲の密着度が増していくと熱気が否応なく高まってきた。
僕はぐるりとスタンドを見渡し、どうか一杯の観客で埋め尽くされますようにと願う。
やがてライブがスタートすると、あちこちから怒号のような歓声が沸いた。
僕は括目し、一瞬足りとも見逃さないという心持ちでステージ上を凝視し続けたのだった。

 

 

 

 

3.

セットリスト

01 BABYMETAL DEATH
02 ギミチョコ!!
03 メギツネ
04 Catch me if you can
05 Road of Resistance
06 KARATE
07 ヘドバンギャー!!
08 イジメ、ダメ、ゼッタイ

 

 

今日もまた定番の「BABYMETAL DEATH」でライブが始まる。
3つのビジョンに映る「Road of SUMMER SONIC」の映像も昨日と同じ内容のものだった。
“ 首の準備は出来ているか? もう一度聞く、首の準備は出来ているか?”
染谷歩のナレーションに嬉々として大声で応える観客たち。
“ 2017年夏 新たな伝説の幕開けだ―― ”
やがて怒涛の六連符リフが場内に轟いてライブが始まると、すぐさま強烈な圧縮が起こった。
左右にゆっくり大きくうねりながら、僕は “ B! A! B! Y! ” と声を張る。
大勢の観客が “ DEATH! DEATH!” と手を上げて狂い叫んでいるが、
それはキツネ様へ信仰を捧げるメイトたちのシュプレヒコールといった様相を呈している。

 

斜め後方では激しいモッシュが起こっている。
僕は圧縮の波を逃れてそちらになんとか移動すると、メイたちと一緒くたになって騒いだ。
陽気な悲鳴があちこちから聞こえてくる
爆音が容赦なく全身に降り注いでくる。

 

間奏のギターソロに入ると、フロントの3人は、
お立ち台に上って観客を鼓舞することなく、幅広いステージの端の方まで駆けていった。
下手の端っこにはMOAMETALがやってきて、愛くるしい笑顔で観客を煽り続けている。
ビジョンに映る3人は、共になんともいえない清々しい表情をしていた。
このステージに立つのが待ち遠しくて仕方がなかった、そんな按配の微笑のように思えた。

 

後半に入ると観客たちのモッシュはさらに激しくなっていった。
統率の取れた軍隊の掛け声にように、 “ DEATH! DEATH!” の低い声が響き渡っている。
キツネサインを掲げたSU-METALが全力でステージを走り回っている様子が目に留まる。
その姿を眺めていると、やはりこのステージに立つのは嬉しかったんだな、と確信した。
僕は口元に薄い笑みを湛えたまま最後まで大声を振り絞った。“ BABYMETAL DEATH !”

 

続く曲は「ギミチョコ!!」。昨日と同じ流れだ。
イントロが流れてくるだけで周囲から大歓声が上がった。
ギュウギュウのモッシュピットは、なんとかしてサークルだけは形成していたが、
そこからサークルモッシュに流れる人、その場で激しくモッシュする人とに別れていた。
だから僕はサークル中央でタオルを回し、微力ながらサークルモッシュの動線を作った。

 

間奏のギターソロに入ると、またYUIMETALとMOAMETALがステージの端まで駆けていった。
SU-METALはお立ち台の上から “ サマソニー! クラップユアハンド!” と叫び、煽っている。
結局、モッシュはほとんど途切れることなく続き、同曲は大盛り上がりのもと終了した。
観客の年齢層は幅広いが、みな同じような至福の表情を浮かべている。

 

 

 

ペットボトルの水が空中に舞っている。
ライブはそのまま「メギツネ」へと続いていく。
日が落ち、辺りは薄暗くなっているので、ステージ上の3人がより鮮やかに見えてくる。
視界に映るほとんどの人は手を上げていて、腹の底から大声で “ ソレッ!” と叫んでいる。

 

僕は周りと一緒に何度もジャンプし、それから、満を持してヘドバンを繰り出す。
ビートがあまりにも心地良い。
今回の変顔対決では、MOAMETALは、SU-METALを見つめたまま首を左右に振っていた。
その後こちらを向いたSU-METALは、あたりを睥睨するように、ゆっくりと首を動かし始めた。
そしてまた“ サマソニー!” と叫ぶと、その後は観客たちにジャンプを促した。
メイトたちは従順にそれに倣い、体をぶつけ合いがなら笑顔でジャンプを繰り返した。

 

SU-METALの、最後の “ あ~あ~ ” の歌声は益々艶っぽくなったように感じる。
レコーディングの時、石川さゆりを意識してと言われた、と語った逸話がふと思い出される。
3人がポーズを決め、同曲が終了すると、周りから割れんばかりの歓声が上がった。
初見らしき人も満足気に拍手をしている。どうやら気に入ったようだ。
やはりフェスにおける「メギツネ」のインパクトと爆発力は凄まじい。

 

セトリは昨日と同じようだ。
だとしたら、このあとにくるのは「Catch me if you can」だろう――。
大盛況だった「メギツネ」が終わった後はそういう認識でいた。
だからいきなり「Road of Resistance」の映像が流れてきたときには少々面食らった。
が、神バンドの面々を確認したところ、それぞれが顔を見合わせて苦笑していたので、
おそらくはマニピュレーターのミスだったのだろう、これは間違いだと予見することができた。
果たして映像が終わったあとは予定どおり「Catch me if you can」のイントロが始まり、
神バンドが各々高度なソロを披露して、多くの観衆を沸かせたのだった。

 

ライトアップされたステージで3人が楽しそうに踊る。
体を揺らし、鬼さんこちらと手拍子をする観客たちもみな笑顔。
場内が一体となってBABYMETALのライブを満喫している。
僕は笑みを湛えたまま、溌剌とした動きでステージを駆け巡る3人の姿を目で追っていった。
幾ばくか、公園で無邪気に遊ぶ3姉妹を見守る保護者のような心持ちで。

 

間奏に入ったところだった。
それは突然やってきた。
今宵のライブのクライマックスのシーンだ。
SU-METALが再びお立ち台に上がり、大きな声で “ サマーソニック!” と叫ぶ。
直後、ビジョンに彼女の美しい表情が映るが、
これまでと違い、どこか愁いを帯びているように感じられた。
しかしながらその表情は、淋しいからではなく、感慨に浸っていたからなのだとすぐに知る。
壇上のSU-METALは、思いを強く噛み締めるようにして、
その場にいる観客全員に向かって語気を強めて続けて叫んだのだった。
“ ついに――、ついにここまで来ました!”

 

その時のSU-METALの表情が今でも忘れられない。
マリンスタジアムでライブをやりたいとは、前から思っていたのだと思う。
その後に続けて叫んだ、“ ここで、大きなサークルが見たい!” という表情からは、
この巨大なマリンスタジアムでしかできない巨大なサークルを作ってみたいという、
無邪気じみた、はたまた雅趣に富んだ思いが垣間見れた。
そうして観客たちは彼女の期待に応え、大きなサークルをいくつも作っていった。
“ みなさんの本気は、こんなものですか?” “ ちゃんと見えてるよー ” 。
MOAMETALとYUIMETALの可愛らしい叱咤激励を背に受けながら。

 

いつもよりも感慨深かった「Catch me if you can」が終了する。
ややあって、「Road of Resistance」のムービーが流れ始める。
今度は間違いではないだろう。
そう確信しながら、メイトたちがまた大きなサークルを作っていく。
それは「Catch me if you can」のときよりも大きなサークルだった。

 

法螺貝と陣太鼓の音が夜空に不気味に響く。
途中、僕はおもむろにサークルの中へと進んでいく。
やがてギターオーケストレーションの美しいメロディが奏でられると、
僕は目を閉じてその場で盛大にエアギターに興じる。
刹那、快楽物質が脳内に広がっていくのを体感する。
快感だった。
その後は激しWODに備え、周囲の人たちと準備に入る。
そしてカウントを合図に、今日イチのWODに嬉々として参戦した。
笑っているのかよくわからない大量の喚き声が幕張の夜空を揺すっている。

 

昨日もそうだったが、フェスでの「Road of Resistance」は最高に盛り上がる。
今宵も巨大なWOD、高速サークルモッシュが発生し、
その都度参加しては、円の外にいる人たちと笑顔でハイタッチをしてまわった。
そしてシンガロングが始まる直前でもおもいきりエアギターをかました。
なんとも言いようのない快感が全身を駆け巡っていった。

 

「Road of Resistance」の熱狂が冷めやらぬ中、続けざまに「KARATE」が始まる。
僕は瞳を閉じて頭を揺らし、ギターの刻み音を全身で感じる。
それから、楽曲の隅々まで堪能するように上体を大きく揺らし続ける。
知らない人の肩を借り、一緒になってヘドバンをする。

 

すぐ横では、相変わらずモッシュが起こっているが、
僕は気持ちよくヘドバンを続けながら同曲を満喫した。
“ ウォウォー! ウォウォー! ウォウォー!” と声を張って拳を突き上げる。
間奏に入ると、瞳を凝らしてステージ上を凝視する。

 

SU-METALが左右の2人を引っ張り起こす演出。
それは昨日と同じだったが、先ほどのSU-METALの歓喜の声が未だ耳に残っているせいだろう、
僕にはこの演出が昨日よりも劇的に思えて、気が付けば一緒になって拳を突き上げていた。
まるで自分を鼓舞するかのように。
そして “ エブリバディジャンプ!” のシーンでは、みんなに負けじと思いきり跳躍する。
最後、SU-METALが “ 走れー!” と歌い上げた時にはぶるぶると身震いがした。
この体の内側から震える感覚は感動以外のなにものでもない。

 

アウトロが響く中、ビジョンに映る3人の姿を眺めていると、
急に感極まって、思わずそこで泣き出しそうになった。
やはり屋外での夜のライブはよく映える。
ふだんのライブ以上に彼女たちは輝いている。

 

その後すぐに次曲が始まる。
不穏なムードを醸し出している前奏曲が流れてくればそれは「ヘドバンギャー!!」。
SU-METALがCメロを歌い終えると、その後はベビーヘドバンタイム。
YUIMETALとMOAMETALの2人に合わせ、僕は一定のリズムで首を左右に振った。

 

やがて間奏が訪れる。
待ってましたとばかりに僕は地面にしゃがみ込む。
そして複数のメイトたちと輪になって土下座ヘドバンに興じる。
その後の “ 消えろ ” の掛け声は、 “ こいや!” のとき以上の迫力があった。

 

最後にSU-METALが “ ヘドバンギャー!! ” と渾身のシャウトをかまし、同曲は終了した。
歓声が沸く中、恍惚な表情を浮かべて放心している観客の姿がちらほら目についた。
熱量は一切衰えることなく、ライブはそのままラストの「イジメ、ダメ、ゼッタイ」へと続いていった。
2日連続でずっとモッシュしているのでさすがに疲れはあったが、僕は最後の力を振り絞った。

 

やがて映像が終わり、SU-METALが “ ルルルー ” と唄い出す。
周りの観客たちが次第に興奮していく様子が手に取るように分かる。
そしてSU-METALの咆哮を合図に、巨大なWODを敢行する観客たち。
歓声が、SU-METALのシャウトとシンクロし、怒涛の響きを轟かせている。
僕はしばらくモッシュした後、サークルの中央でステージの方を凝視した。

 

思わずうっとりとして目を閉じる。
ツインギターのハモりがとても心地良かった。
爆音の中を、SU-METALのクリアな歌声が突き抜けていく。
YUIMETALとMOAMETALの可愛らしい掛け声に、観客たちが笑顔で呼応する。
視界を覆い尽くすダメジャンプは壮観の一言。
まるで機関銃のようなブラストビートがこの場所まで響き渡ってくる。

 

間奏に入ると僕はすぐに親指を立てる。ここではマスト。
ギターの速弾きを聴きながら顔を歪め、YUIMETALとMOAMETALのバトルを見守る。
SU-METALの力強い歌声を聴いていると再び顔が歪んだ。
自然と感極まって僕は涙を零す。堪えようと、ギュッと唇を噛む。
“ きみを、まもる、かーらー ”
SU-METALの歌唱はどこまでも伸びていき、やがてそれは夜空の中に掻き消えていった。

 

最後のDメロから大サビにかけてはずっと鳥肌が立ちっぱなしだった。
叙情的なユニゾンの演奏が骨身に沁みた。
そうして大盛り上がりのもと、彼女たちの記念すべきライブは終了した。
3人が満足げな笑みを浮かべ、互いを見やる。
私たちはやり切った、と心底実感している爽やかな笑顔だった。

 

YUIMETALとMOAMETALがステージの端に向かって走り始める。
お立ち台に上がったSU-METALは、満面の笑みを浮かべ、観客に向かって両手を広げた。
それは僕の目には、この場所に立たせてくれた観客にお礼を言っている、そのように映った。
そのまま3人は恒例のC&Rで締め、“ SEE YOU ” と言って舞台を去っていったのだが、
彼女たちや神バンドに向けられた拍手や歓声はしばらくの間消えることはなかったのだった。

 

こうして、準ヘッドライナーである彼女たちのライブは大歓声を受けて終了となった。
僕はドリンクを求めて一度会場を出る。喉がカラカラだ。
後方に移動する際、近くにいた人たちと笑顔でハイタッチを交わしたのだけれど、
モッシュピットの中で最後まで頑張っていた女性の数がそれなりにいたのは驚きだった。
そして、肩を組んでヘドバンしたり、背中に手を当てて一緒に折り畳みヘドバンをしたりした、
見ず知らずの中年メイトと抱擁を交わして、今夜のライブの素晴らしさを分かち合った。
互いにメタルネームを名乗ることはなかったが、またどこかの会場で会う機会はあるだろう。

 

 

 

 

4.

水分補給を終えた後はまたスタジアムの中へ戻った。
そしてトリの FOO FIGHTERS のライブを観た。
アルバム「One by One」の「All My Life」で彼らのライブはスタートし、
「Learn to Fly」「The Pretender」「My Hero」「Big Me」と続いていく。
どれもシングルでリリースされた曲ばかりだったように思う。
そして新譜の「Run」を観終えたところで、僕は SONIC STAGE へ移動した。
どうしても最後に観たかったバンドがあったからだ。

 

その後は SONIC STAGE で少しだけ SUM41 のライブを観た。
「We’re All To Blame」「Walking Disaster」と好きな曲が続く。
「Noots」や「What We’re All About」があればなおよかったが、
それでも十分に満足できるライブだった。
FOO FIGHTERS も嫌いではないが、 SUM41 の方がより好みの「音」なので仕方がない。

 

そして大満足のもと、僕は会場を後にした。
2日連続で参戦した今年の SUMMER SONIC 2017。
ざっと振り返ると、楽しかったという感情しか沸いてこない。
僕は薄い笑みを湛えまま帰路に着く。
そして帰りの電車に揺られながら、改めて今日一日を振り返った。

 

ライブが印象的だったのは、やはり最初に観た THE STRUTS だろうか。
音楽的には、クイーンだけでなく、古き良き英国ロック自体を受け継いでいて、
しかもそれを現代風にアレンジしているといった感じの楽曲ばかりだった。
おそらくT・レックスが好きな人は、なんの違和感もなく、THE STRUTS は気にいるように思う。
また日本のフェスに出るようであれば、そのときは優先的に彼らのライブを見るだろう。

 

そして一番感慨深かったアクトは、それはやはりBABYMETALだろう。
アリーナの後方やスタンドの様子まではわからないが、
ピットに限れば、メイトと初見の人が入り乱れて、今宵も単独ライブのようなノリだった。
彼女たちはメインステージの準ヘッドライナーという役割を見事に果たしたのだった。

 

それから、BABYMETALのライブの中身で一番印象的だったのは、
それは間違いなく「Catch me if you can」でのSU-METALの日本語でのMCだろう。
彼女の日本語のMCは、ひょっとしたら昨年の ROCK IN JAPAN 以来だったかもしれない。
あのときに彼女が発した “ みんなの声を聞かせて ” は鳥肌ものだったが、
今宵の “ ついにここまで来ました!” も、彼女の思いがギュッと言葉に凝縮されていて、
心にグッとくるものがあった。
あの表情を鑑みるに、彼女自身も、万感胸に迫るものがあったのではないだろうか。

 

また、2日連続で彼女たちのライブを観て、改めて思い直したことがある。
それは、やはり BABYMETAL は、ライブバンドであるということ。
いくら優れた楽曲を作っても、いくら演奏力が高くても、
ライブで観客を熱狂させるには、それ以外の要素が必要になってくる。
前者は観客の注目を浴びたり、観客に感銘を覚えさせたりすることはできるだろうが、
ものすごい熱量で観客たちを熱狂させるには、それ+(プラス)アルファが必要だ。
その点で言えば、BABYMETALは、優れた楽曲群、高い演奏スキルと揃っていて、
なおかつ、曲ごとで、観客たちの乗せ方がとても上手い。
それもバリエーションに富んでいる。
彼女たちのように、ライブが凄いアクトというのはやはり希少だ。
それは1つ前に登場した MAN WITH A MISSION にも言えることである。

 

BABYMETALのようなアクトは、これまではもとより、後の世にも決して現れることはないだろう。
キツネ様の黙示録によれば、BABYMETALは、
キツネ様のお告げに従ってこの世に降臨したと記されているが、
そもそもこの3人だったからこそ、今の成功に結びついているのではないかと思う。
類い稀な才能を具えたダイアモンドの原石が、時を同じくして引き寄せ合って集結し、
そこからは誰も予想だにしていなかった奇跡のストーリーを展開した。

 

今でこそ、たくさんの海外の大物アーティストたちから称賛されるBABYMETALだが、
彼女たちのことをよく思っていない人たちは未だに多数存在する。
それはメタルエリートなのか、単純にアジアのアクトが気に入らないのか、
はたまた彼女たちの活躍が面白くないと思っている、
国内の古のロックミュージシャンなのかはわからないが、
いずれにせよ、寛容な心を持って、BABYMETALの本質をしっかりと捉えることができたならば、
非難しつつも、どこか心の中で納得する部分も出てくるのではないだろうか。
悪く言いつつも、内心では、人気の理由についてはちゃんと理解しているといった具合に。

 

でもきっと彼らは、これまでにしてきた行いに対してバツの悪さを感じ、
今さら素直に認めるようなことはしないのだろう。
誰もがキム・ケリーのように態度を改めるとは限らないのだ。
でもそれも仕方がないと思う。なぜならばみんな人だから。
人間の心には、互いに矛盾したふたつの感情が存在するのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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