BABYMETAL 白ミサ ZeppTokyo ライブ レポート

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1.

そうさ、俺は今、ゴッサム・シティを離れ、トーキョー・シティにいる。
なぜなら奴がこの街に潜んでいるという情報を入手したからだ。
ん? ところでおまえは何者なんだ、だと?
教えてやろう。
俺の名は――。

 

 

 

だいたいあいつは俺のオモチャなんだ。
あいつが欠けたら俺は生きていけない。
だからこっちに来た。単純な話だ。
ん? あいつとは誰なんだ、だと?
そんなことはわかりきっている。
あいつとは――。

 

 

 

ん? まさかおまえ、俺が死んだとでも思っていたのか?

 

 

 

確かに奴に捕まり、ビルで宙吊りにされたが、俺は死んじゃあいない。
あの後、留置所にぶち込まれはしたが、脱出なんて朝飯前だ。
看守役のポリ公なんてちょいと刺激するだけで簡単に操れる。
俺が過去に殺(ヤ)ッた同僚の警官たちの話をしてやればイチコロさ。
憎しみや恨みといった感情は簡単には消えないからな。
人間ってのは最後の瞬間に本性が出るんだ。

 

それにしてもなんだ?
この国の住民どもは礼儀ってものを知らないのか。
電車に乗り込んだ途端、周りの奴らがジロジロと俺を見つめやがる。
“ Why so serious? ”
そのしかめツラは何だ? 俺の顔がめずらしいのか?
それならおまえもナイフで口元を裂いてやろうか?
あっという間に――。

 

 

 

ハッハー!
どいつもこいつもビビってやがる。
まあいい。
そんなことよりも今はバットマンだ。
俺はあいつがこの国にいるという確かな手がかりを持っているんだ。
この一枚の写真がそうだ。

 

 

 

Shit!
奴め、仲間を増やしてやがる。
しかもマスクの形も変わってるじゃねえか。
なんだその長い耳は。ドロンジョか。深キョンか。
写真集買えってか。もち2冊とも買ったさ。
それより、こいつらがバットマンであることは間違いないんだ。

 

 

 

なぜならこいつらの近くには、あのゴードンがいるらしいからな。
俺はゴードンの最近の写真も入手したんだ。
こいつがいるということは、バットマンも近くにいるということだ。

 

 

これはこれはゴードン警部補。
いや、ゴッサム市警本部長殿。
髪型を変えてグラサンをかけてもおまえはゴードンそのものだ。
俺の眼力にかかれば、おまえの変装なんて簡単に見破れるのさ。
今に待ってろ。切り札のトゥーフェイスを送り込むまでもない。
俺自ら、バットマンもろともおまえも血祭りにしてやるぜ。

 

 

 

さあ、ようやく着いたぞ。
この会場で、今からBABYMETALのライブがあるんだ。
どうやらバットマンはこの会場に潜んでいるらしいからな。
あくまでも目的はバットマンだ。
BABYMETALなんてどうだっていいんだ。

 

というか、そもそも俺はBABYMETALが大嫌いなんだ。
あれはメタルへの冒涜だ。
俺が認めるメタルは “ブラックメタル” のみ。
ブラックメタル以外はメタルじゃねえ。
最高なのはブラックメタルだけだ。
白塗りをして悪魔を崇拝するブラックメタルには心からシンパシーを感じるぜ!

 

 

 

おお、VENOM、BURZUM、EMPEROR、MAYHEM――。
好きなブラックメタルのバンドは幾つもあるが、
最近俺がハマっているのはこれ。
Abbathだ。

 

 

 

 

 

 

間違えた。これは違う。
こっちだ。

 

 

 

フフッ。
オルヴェ・エイケモはいつだって最高だ。
俺はイモータルの頃からファンだったんだ。
言うなれば、奴はノルウェーのデーモン小暮だ。
奴と会う機会があれば、一緒に写真を撮ってみたいものだぜ。

 

話が逸れたが、ブラックメタルじゃないBABYMETALは大嫌いってことだ。
あいつらが海外のフェスに出演すると聞きつけると、
俺はたまに現地に行って、奴らのファンを叩きのめすのさ。
俺のダチに、根っからのメタルヘッズで、強烈なベビメタアンチ、というか、
とあるヘイターがいるんだが、そいつは欧州のフェスならほとんど出向いてる。
そしてBABYMETALの曲が流れていてWODが起きると乱闘の始まりさ。
ファンを殴りつけるとスカっとするぜ。
だから俺もそのダチと一緒に、たまに奴らのフェスには行くんだ。
勘違いするなよ、「メイト」とかいうんじゃないぜ。
あいつらのファンを殴るのは気持ちがいいから行くまでだ。
国内のライブに限れば――、そうだな、かれこれもう3年ほど通っている。
もちろん単独ライブにもだ。
3年前、俺はAPOCALYPSEの会員だったんだ。
今でもバインダー形式のアーティストブックは大事に保管してる。
APOCALYPSE WEBのみで公開されていたショートムービーが懐かしいぜ。

 

 

 

そして今はもちろんTHE ONE会員だ。
思い起こせば、日本国内の小箱の単独ライブは一昨年の6月以来、ようやく2度目だ。
抽選は毎回申し込んでいたんだが、すべて落選で、その都度歯茎から血を流した。
そしてその血は口の中には溜まらずに、唇の横の裂け目からすべて滴り落ちたんだ!
2年2ヵ月ぶり――。ああ、本当に長かったぜ。
今夜のライブが今から楽しみだ。

 

 

 

それにしてもなんだこいつらは。
今日はBABYMETALのライブだよな?
揃いも揃って、ブラックメタルみたいにコープス・ペイントなんかしやがって。
いや、却って好都合か。
こいつらに紛れていればバッドマンに簡単に近づくことができるな。

 

そういえばもうひとつ、バットマンの手掛かりがあったんだったな。
なんでもBABYMETALには“ キツネの神様 ”ってのがバックにいるらしいが、
確かバットマンの側近にもそんな名前の奴がいただろう。
ずばり、俺はそいつが“ FOX GOD ”だと睨んでいる。

 

 

 

フッ。
これだけ材料が揃ってるんだ。
バットマンの野郎がBABYMETALのライブ会場に潜んでいることは間違いない。
覚悟しな、バットマン。もう逃げられないぜ。
俺とおまえは永遠に戦い続ける運命だぜ――。

 

 

 

――開場時刻になったら順番に入場が始まった。
チケットの当選者かどうかは顔認証の機械で識別するらしい。
面倒だが仕方がない。
無法者の俺だが、どんなライブだろうとルールは遵守するぜ。
少しばかり時間がかかっているようだが、なんのことはない、俺は即入場だ。
元からTHE ONE IDに登録している顔写真は白塗りメイクだからな。一発で認証OKだ。

 

開演まで待っている間、隣の奴がなれなれしく話しかけてきやがった。
「メイト歴は長いんですか?」
Fuck you! ふざけやがって。
俺はTHE ONE会員で、その前はAPOCALYPSE会員だったが、断じてメイトじゃねえ。
おまえらをぶん殴るためにメイトのフリをしているだけだ。
よし、WODが始まったら、真っ先におまえをブッ飛ばしてやるからな!

 

そうやって俺は凄んで隣の奴を睨み付けたんだけど、
そいつはヘラヘラ笑いながら、なんと俺の顔を指さしやがった。
「そのメイク、キマってますね。慣れてるんですか?」
Mother-fucker! 畜生めーっ!
俺はふだんからこのメイクで生活してるんだよ!
よおし、わかった。
WODでは、瀕死の状態になるまでおまえをいたぶってやる。
そうして、おまえを頭のおかしい奴に仕立ててやろう。
俺の信念はこうだ。
“死ぬような目に遭った奴は――”

 

 

覚えておきな。

 

 

 

 

2.

セトリ

01. BABYMETAL DEATH
02. ヤバッ!
03. いいね!
04. Catch me if you can
05. GJ!
06. Amore – 蒼星 –
07. ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト
08. メギツネ
09. ヘドバンギャー!!
10. Road of Resistance

 

やがて暗転してBABYMETALのライブが始まりやがった。
フフッ。血が滾るぜ。早いところメイトどもを片っ端からぶん殴ってやりたいぜ。
おっと、それよりも大事なことがあったんだったな。
こいつらをぶん殴ってスカッとするのは二の次だ。
今夜の最大の目的はバットマンとの対決。
それまではおとなしくしておくのが得策だろう。
変に目立ってバットマンの野郎に見つかって逃げられたりでもしたらまさに愚の骨頂だ。

 

ライブが始まるなり、周り中が“ DEATH! DEATH! ”の大合唱。
DEATH――なんていい響きだ。
いいぞ、もっとやれ。
開演前に俺に話かけてきた隣の奴まで大声で叫んでやがる。
“ BABYMETAL DEATH!”
ハハッ。そうかそうか。本当はおまえもBABYMETALが嫌いなんだな。
俺も一緒に叫んでやるぜ。BABYMETALに死を!
“ BABYMETAL DEATH!” イェアァーッ!

 

そういえば、ダチのとあるヘイターは、よく仲間を地元のパブに集めては、
みんなと一緒にBABYMETALのブルーレイデロリアンを鑑賞し、
「見ろよ、猿みたいに動き回ってるぜ」 と騒いでBABYMETALを罵倒してたっけな。
そしてある時、またパブにみんなで集まって「Red Night」をじっくり鑑賞していたら、
他のグループとのいざこざが原因で、仲間の一人、ピーターの奴が死んじまったんだ……。
ナイフで刺され、病院に運ばれたあいつも、死ぬ間際まで、
「……Baby Metal……Death!」 と呟いてた。
俺たちはその時号泣した。
こんな瀕死の状態になっても、 俺たちと一緒にBABYMETALを叩きたいなんて!
「おい! 死ぬな! 一緒にフェスに行くんだろ!」
手を握り締めて必死に励ましたんだ。しかし……バラカンの野郎は……。
フッ。あの時のことをふと思い出して、少しばかりセンチになっちまったぜ――。

 

続いてライブは2曲目に突入した。
俺は笑いながら、隣の奴に向かって言ってやったんだ。
“ おまえ、本当はBABYMETALが嫌いなんだろ? ”
するとそいつはフリコピしながら答えてきた。

 

“ チガウ! チガウ! ”

“ いいや、違わないね。おまえは本当はBABYMETALが嫌いなんだ ”

“ チガウ! チガウ! ”

“ フッ。正直になれよ。俺もBABYMETALが嫌いなんだ ”

“ チガウ! チガウ! ”

“ 違わねえ。俺はBABYMETALが大嫌いだっつーの ”

“ 気になっちゃってどうしよう ”

“ アホか。嫌いだっつってんのに、なんで気になっちゃうんだよ! ”

 

さすがの俺もこれには頭に来たぜ。
こともあろうか、こいつは俺に“ BABYMETALは好きなんだろ ”と言ってきやがった。
冗談じゃねえ。好きなはずがないだろうが。
違う。違いすぎて困る。
だけど否定しても、奴は“ ピッポパッポ ピッポパッポ ピー ”と言ってはぐらすばかり。
くそっ、この俺をおちょくりやがって――。
ヤバッ! 今はBABYMETALが好きとか嫌いとかで揉めてる場合じゃなかった。
ええっと、あれも違う、これも違う。
あー全部、全部違う!
気になっちゃったのはバットマンだ。
だからこいつのことなんて気にすんなっていいでしょ。
パーリラ パーリラ フー!

 

その後はなにやら賑やかな曲が流れたな。
ちらりと横を見れば、隣の奴が俺に向かって“ いいね! いいね!”と親指を立ててくる。
ムカつくぜ。こいつはまだ俺がBABYMETALが好きだと思っていやがる。
なにがBABYMETALはいいねだ。
チッ、ウザくて仕方がねえな。
だから俺はどさくさ紛れに “ モッシュッシュ―! ” と言ってそいつを突き飛ばしてやったんだ。
大事なコール&レスポンスがもうすぐだったしな。
東京に来たら一度は行ってみたいと俺も思ってたんだ。
セイホー! ホー! スカイツリー!

 

それからしばらくすると、遂に奴らが前に出てきやがった。
バットマンじゃないぞ。バンドマンの方だ。
それにしても……、Holy fuckin shit!
なんて爆音だ。さすがは小箱のライブだ。
フェスのときには乱闘に夢中であまりじっくり聴いてなかったが、
まぁ、聴きたくもないんだが、バンドはやはり馬鹿テクだ。
くそっ、ムカつくぜ。
ブラックメタルのどのバンドよりも演奏が上手いときやがる。
それも圧倒的にだ。痺れるぜ。

 

曲の途中に、俺は小さなサークルモッシュの波に呑み込まれた。
多くの柵で区切られたピットだったから小さいのは仕方がなかったんだ。
本当だぞ? フェスではビックリするくらいサークルはデカいんだ。
アリーナの単独ライブでもそうだな。あれにはいつもワクワクするぜ。
そしてそのサークルモッシュが起こった際、全員殴ってやろうかと思ったりもしたんだが、
今はまだその時じゃなかった。
目立ってバットマンの野郎に見つかるわけにはいかないからな。
だから俺は仕方なく周りに合わせてぐるぐると回った。
本当に仕方なくだ。
だけどいつの間にか俺は次第に楽曲にノリ始めていたんだ。
わかるだろ? ギターのザクザク音が心地良いんだ。
そして気が付けば、俺は知らないメイトどもとハイタッチを交わしていたんだ――。

 

 

 

えっ、まさか俺はBABYMETALのライブを楽しんでいるのか?
いいや、違うね。
もうじきバットマンの野郎に会えると思っているから愉快なんだ。
えっ、なに? ビックリしたぁ。急になんですのん。
サークルモッシュを止めたと思ったら、周りの奴らが一斉に手拍子を始めやがった。
だから思わず俺もビクッとして同じ反応をしちまったぜ。

 

 

 

曲の終盤になると、変な煽りが始まりやがった。
ピットにウェーブを起こそうとしやがったんだ。
くだらない。
なんでこんな場所でウェーブなんてやる必要があるんだ?
だけど俺だけやらずに目立ってしまうのもマイナスだろ?
ああ、だから仕方なく俺もやったさ。
横から来るのをドキドキして待ちながらな。
アッ! 来た!

 

 

 

その後も俺はメイトどもをぶん殴りたい気持ちを抑えて、
目を凝らしてバットマンを探したんだけど、奴め、なかなか正体を現そうとしない。
フッ、いいだろう。
こうなったら強硬手段に出るまでだ。
おまえが姿を現すまで、ここにいる連中を一人ずつ殺してやろう。
今夜からだ。

 

 

 

さて、まずはおまえからだ!
そう意義込み、隣の奴に襲いかかろうとしたまさにその時、周りで激しいモッシュが起こった。
すると隣の奴が“ Die! Die! Die! ”と叫びながら俺にぶつかってきやがったんだ。
ほう、いい度胸じゃねえか。おまえが俺を殺すってか。
殺すのは俺の方だ、と言わんばかりに、俺はそいつの胸を突き飛ばした。
すると奴ときたら、笑みを零したまま、
「もっともっとホラ! もっともっとホラ!」と俺を挑発しやがったんだ!
この野郎……、上等だ。今すぐにでも殺してやろう。
そう思った瞬間、俺は激しい圧縮の餌食にあった。
くそっ。身動きがあまり取れないから、おまえを殺すのは今はお預けだ。
それにしても……、おい、おまえ、強く押しすぎだろ。
そんなに強く押したら、昼に食べた、職人が力づくで練ったうどんが戻ってくるじゃねえか。
アイタタタタ……。
ちょ、痛いから止めろって!
それでも奴は笑いながらモッシュしてくる。
それも体ではなく、今度は俺の顔面を肘で押してくる。
しかも“ ノーテンキな自分がナンバーワン ”とほざきながらだ!
おい、おまえ、ノーテンキな気分で俺の顔に肘を入れるんじゃねえよ!
少しは気にかけろよバカヤロウ。
くそっ、いい加減にしろよ。痛いつってんだろ!
見ろ! こんなに顔が腫れちまったじゃねえか!
だから言ってるだろ――。

 

 

 

ちょっと痛かったが、こういうのはメタルのライブではよくあることだ。
だから俺はその後もモッシュを楽しんだ。
まあ、ブラックメタルでもモッシュはあるし、それに参加したからって罪じゃない。
BABYMETALが大嫌いであることに変わりはないんだ。

 

その後もライブは続き、すでに半分を折り返していた。
俺は未だにバットマンを見つけられずにいる。
さすがに少し焦ってきた。
どういうことだ!?
もしや情報はガセだったのか?
俺は楽しくモッシュしながら何気なくステージ上に視線を送った。

 

そのときだった。
なぜだか急にヴォーカルの女に視線が釘付けになった。
名前はSU-METALだったか。
そいつは凛とした表情で観客を睥睨するように仁王立ちしていたから、
俺は思わず内心でこう呟いちまった。

 

 

曲もメロスピ調でカッコよくて、
俺は自然とヘドバンを繰り返していたんだ。
クソッ、ここでも楽器隊が抜群に上手いじゃねえか。
なんだあのベースソロは。
ツインギターの音色も最高に心地良いときやがる。
だけど特筆すべきはやはりヴォーカル。
なんてクリアな声をしてやがるんだ。
爆音の中をどこまでも伸びていきやがる。
俺は気付かないうちにステージを凝視していた。
すると突然照明が暗くなり、演奏も止み、女にだけライトが当たった。
それはとても幻想的だったから、俺は思わず周りに合わせて手を上げてしまったんだ。

 

 

 

その後はあまり覚えちゃいないが、音が怒涛に雪崩れ込んできてたのは覚えてる。
俺はちょっとした陶酔感に浸っていたんだ。
BABYMETALが嫌いであることは変わらないが、1曲くらい認めてやってもいいだろう。
まあ、そのくらいじゃバチは当たらないしな……。

 

その後はアップテンポな曲が続いた。
それにしても、なんだこりゃ、この観客どもの一体感は――。
全員が揃いも揃って“ キンキラリーン ”なんて叫んでやがる。
だから俺もこいつらの熱情に呑まれて少しだけレスポンスをしちまったぜ。

 

 

 

それから俺はステージを眺めていたんだが、少し不思議な感覚に囚われた。
俺はあの3人の小娘が根っから嫌いなはずなんだ。
だけど、だけどなんなんだ、あの3人は……。
あんなに激しく踊っているのにずっと笑顔でいやがる。
しかもダンスはキレッキレ。
ブレイクダウンの時などは、妖艶さも漂わせた表現力だ。
あいつらは本当に人間か?
まるで“ 艶のあるモンスター ”じゃないか。
それに、ほんの少しだけ、本当にちょっぴりだけど、俺はライブそのものも楽しんできている。
はっ、いかん。
くそーっ。やはりメタルへの冒涜だ。
メタルがこんなに楽しいはずはないんだ……。

 

俺はギュっと唇を噛み、BABYMETALに対する憎悪を再び募らせながら体を揺らした。
するとそこで、近くにいた女の客が俺の足を踏み付けやがったんだ!
俺は抗議するつもりでその女を睨みつけたんだけど、
こっちに気付いていないのか、その女はモッシュとばかりにこの俺にぶつかってきやがった。
フッ、おまえ、随分と――。

 

 

女性エリアじゃなくピットの真ん中にいるなんて、おまえ、いい度胸じゃないか。
気に入ったぞ。
おい、こっちを見ろ。俺の顔を見ろ。
物語を聞かそう。
俺にはあんた似の美人のカミさんがいた。
口癖は――、“シケた顔しないでもっと笑いなさいよ”。
彼女はギャンブルに明け暮れて借金漬け。脅しに顔も切られた。
手術の金もなく、泣き暮らす彼女。
俺は笑顔が見たかった。傷があってもいいと伝えたかった。
それで――、カミソリを口に入れて裂いた。
自分でな。どうなったと?
“醜い顔がたまらない”と――、彼女は出ていった。
笑えるだろ。今の俺は笑いっぱなしだ。あっ、痛っ!

 

くそっ、人の話は最後まで聞け! 親はどういう教育をしてやがるんだ。
まだ話の途中だというのに、その女はまたもや俺の足を踏みつけやがった。
ヘラヘラと笑いながらな。
どうやらライブに熱中しすぎて周りが見えていないらしい。
というか、そもそもここにいるメイトどもは全員、この女と同じように悦に入っている。
どいつもこいつも狂ったように音楽にノッていやがる。
BABYMETALのライブの時はいつだってそうだ。
一旦ライブが始まれば、こいつらはすぐに――。

 

 

 

続く曲でも、メイトどもはエゴ剥きだしで踊り狂っていたさ。
そしてかくいう俺も、気が付けば、周りの連中と一緒になってジャンプしていた。
くそっ、なんてこった。
俺は頭をぶるぶると振り、邪念を振り払った。
俺は心底BABYMETALが大嫌いなんだ。
だから睨み付けるようにステージを見返した。
その昔、ダチのとあるヘイターと一緒になって、
BABYMETALのCDを叩き割った時のことを思い出しながらな。
取り寄せた輸入盤のCDは高かったから、最後までちゃんと聴いた上でそのCDは叩き割ったんだ。
あの時の怒りをぶつける思いで俺はステージ上をガン見した。
だけどキツネのお面を手に持ったSU-METALの美しさを否定することはできなかった。

 

 

ぐおおおおおーーっ!
俺はそこで髪の毛を掻きむしったさ。
なんてこった。
一瞬とはいえ、この俺がBABYMETALに魅了されるなんて――。
俺は顔を上げると、もう一度キリリとステージ上を睨み付けた。
BABYMETALが大嫌いであることを再確認するためにな。
するとそこでお立ち台の上にいるMOAMETALと目が合った。(ような気がした)

 

 

 

その後のライブのことはあまり覚えちゃいない。
そこでもまた陶酔感に溺れていたんだ。
ワン、ツー、スリー、ジャンプ! の煽りがあったのだけは覚えている。

 

 

 

 

どうやら俺は知らないうちにノリノリになっていたらしい。
そして最後の曲でも、俺はまるで夢遊病患者のように無意識にシンガロングしていた。

 

 

 

小さなWODもあったが、ただただ楽しかったことだけは覚えている。
断っておくが、楽しかったのはあくまでもWODであって、決してBABYMETALじゃあない。
まあ、痺れるギターソロの時にはエアギターもかましたし、
ほんの少しだけ、悪くはないな、と思ったことも無きにしも非ずだが、
最後の去り際、あの“ SEE YOU! ”を聞いた瞬間に、俺は目が醒めた。
なにが“ またね ”だ。
メタルなのに爽やかな声出しやがって!
そのおかげで俺は自分を取り戻すことが出来た。
やはり俺はBABYMETALが大嫌いだ。
メタルは“ブラックメタル”しか認めねえ。
今までも、そしてこの先もずっと――、メイビー……。

 

そして肝心のバットマンだが、結局奴はライブが終わるまで姿を現すことはなかった。
チッ。やはりあの情報がガセだったのか――。
ゴードンと思っていた野郎も2階席にいるのをちらりと見かけたが、
よく見るとそいつはまったくの別人だった。
ゴードンの奴はあそこまでなで肩じゃねえ。
くそっ。とんだ無駄足だったぜ……。
俺はやるせない思いで会場を後にした。
喉がカラカラだったから、長い列に並び、ドリンクを手にする。
そしてそれを一気に飲み干した。
内心で無意識にBABYMETALのチャントをコールしながらな。
チャッ、チャッ、チャッ、チャッ、ベービーメートゥー!

 

 

 

 

3.

ライブが終わり、会場を出ると、俺は購入したTシャツ片手に歩き出した。
デザインがBURZUMみたいでカッコよかったんだ。
そして帰りの途中、不意にうしろから声をかけられた。
「今日のライブも楽しかったですね」
振り返ると、ニヤついた顔の男がいた。
心当たりがなかったから俺が無言でいると、そいつは照れくさそうに、
「ああ、これ、素顔です。メイク落としたんです」と言ってきやがった。
ああ、と俺も小さく首肯したぜ。
その男は、ライブの間、ずっと俺の隣にいたあの野郎だった。

 

そいつはなれなれしく「少し話しませんか?」と言ってきた。
分かってる。今夜のライブについて語りたいんだろ?
メイトの連中はいつだってそうだ。
誰彼かまわずBABYMETAL談義をしたがるんだ。
俺はBABYMETALが嫌いだし、無下に断ってもよかったんだが、
別のライブ会場で顔を合わせた時に気まずくなるのも嫌だから、
ほんの少しだけそいつの相手をしてやることにした。
「あ、白ミサのTシャツ、カッコいいですよね。僕も買いました」
俺はニヤけそうになるのを我慢してそいつと一緒に歩き出した。

 

そいつと話をしている途中に、俺はあることを思い出した。
こいつが俺のことを仲間だと思っているのならそれを利用するまでだ。
俺はおもいきって、バットマンのことをこいつに訊いてみることにした。
もしかしたら何か知っているかもしれない。
そう思い、証拠であるあの画像を見せたんだ。
するとその男はこう言ってきやがった。
「あー、それ。大事に所持してるんですね。さすがはメイト歴が長いだけあるなぁ」

 

俺はメイトじゃねえ、とすぐさま否定したかったが、
こいつは何か知っているふうだった。
だから俺は無言のままでいたんだ。
すると奴は急にスマホを操作すると、
続けざまに2枚の画像を液晶画面に表示させて俺に見せてきた。
「ほら、これ。BABYMETAL」

 

 

 

ファッ!?
チョ待って! チョ待って!
え? BABYMETAL!?
俺が入手した3人のバットマンの画像はBABYMETALだったのか!
オーマイガッ!

 

俺は打ちひしがれたさ。
なんてこった。
俺がバットマンだと思い込んでいたのは、よりによって実はBABYMETALだった。
くっそー。それだったらバットマンのこととか関係なしに、
今夜のライブでも、メイトどもを根こそぎぶん殴っておけばよかったぜ。
だけどそう思ったところですべては後の祭り。
俺は頭を垂れ、後悔の念に苛まれた。
するとそこで横から奴が言ってきたんだ。
「その傷どうしたんですか?」ってな。
俺は顔を上げるとそいつの顔を凝視した。
そして思い出したんだ。
開演前、俺はこいつをイカれた奴に仕立て上げようと算段していたことを。

 

 

 

よし。俺の物語を聞かそう。
俺を見ろ。俺の顔を見ろ。
俺の親父は――、酒浸りで酔っては暴れた。
ある夜、あんまりひどく暴れたもんで――、お袋は包丁で防御。
親父はそれが気に入らなかった。
まるっきり、ただの、少しも。
親父は俺の目の前でお袋を刺し殺した。笑いながらね。
そして俺を振り向くと言った。

 

「その話長くなります?」

 

ガッデームッ!
親父の決め台詞を言おうとしたところで、こいつが横から割り込んできやがった。
チクショウ。相変わらずノーテンキな野郎め!
頭に来た俺はすぐに睨み付けたんだが、
だけど奴は半笑いのまま気さくに話しかけてきた。

 

「今日のモッシュも激しかったですね。みんな狂ったようだったし」

「狂気は重力のようなもの。人はひと押しで落ちてく」

「ちょっと何言ってるのか分からない」

 

その男は富澤メタルと名乗った。
そして、折角こうやって知り合いになったのだから飯でも食いに行こうと誘ってきやがった。
俺はBABYMETALが大嫌いで特に話をすることもなかったから、ここで断ってもよかったんだが、
もしかしたらこいつともっと仲良くなって、
そのうち余ったチケットを譲ってくれたりするかもしれないと思ったから承知したさ。
音が良いから小箱のライブは定期的に行きたいんだ。
そして、そいつと一緒に並んで歩き出した。
他愛のない会話をしながらな。
途中、どんなメタルバンドが好きかという話になったから、俺は正直に言ったよ。
最近ハマっているのは“Abbath”だとな。
すると奴は「ああ、知ってますよ」と言ってまたスマホをいじりだした。
そしておもむろに一枚の画像を俺に見せてきたんだ。

 

 

 

ファッ!?
チョチョチョ、待って。
えっ、なにこれ。
BABYMETALとAbbathが一緒に写真撮ってますやん……。チョー羨ましい。
動揺を隠せずに狼狽えていると、奴は別の画像を俺に見せてきた。

 

 

ん? さっきの写真の拡大画像か。
えっ、キングを見つめるこの女は……、YUIMETAL!?
え、うそ。なにこの表情、めっちゃいい女ですやん。
しかし……、なんだこの安らぐ気持ちは。
この女の顔を見ていると――。
オホッ……、オホッ……、オホッ……オホッホッホッホッホーーーッ!

 

 

 

狂気じみた表情で俺がひとり悶えていると、奴は笑顔で言ってきた。
「ははあ、あなたもYUI推しですか」

 

 

「ええ。そうなんでしょ?」

 

俺はグッと拳を握って怒りを押し殺したさ。
ここではっきりと「俺はBABYMETALが嫌いだ」と言えば、こいつは俺に興味をなくして、
そうしたら、ツイッターのアカウントを教えてくれなくなるかもしれない。
そんなことになったら困るだろ?
仮にチケットを譲ってもらうことになっても連絡の取りようがないからな。
だから俺は渋々奴の話に合わせた。
「今日のライブも素晴らしかったですね」と言うから、俺は力強く首を縦に振った。

 

 

 

その後、俺はそいつと並んでまた歩き出した。
会話の流れで出身地を訊かれたから、俺は少し後ろめたい思いで、
“ 知り合いにはゴッサムって言ってるけど、本当はうち、大阪やねん ”と答えた。
すると奴は俺に気でも遣ったのか、
「じゃあ、お好み焼きでも食べに行きましょう」と言ってきた。
俺は別になんだってよかったから同意したんだが、
続けて言った奴の台詞にだけは絶対に同意することはできなかった。
あろうことか、こいつはこう言いやがったんだ。
「大阪焼きにします? それとも広島焼き?」

 

何だとこの野郎。
クソが。
簡単に略すんじゃねえよ!
頭に血が上った俺はそいつの肩を掴むと顔を近づけて言ってやったよ。
大阪焼きは許せるが、広島焼きは絶対に許せなかった。
これだけは絶対に譲れねえ。絶対にだ!
おい、おまえ、二度と広島焼きって言うな。

 

 

そう呼ばないと、すぅちゃんが怒るからな。

 

 

 

 

 

※現地で絡んでいただいた方、ありがとうございました。
この場をお借りして御礼申し上げます。
また別の会場でお会いしましょう
SEE YOU!

 

※本稿では、映画「ダークナイト」のジョーカーの画像を使用しておりますが、
ライブ中の僕の表情やリアクションも大体同じであったことを最後に記させていただきます。

 

※元ネタ
■火魔人さん制作のMAD動画

 

 

 

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