BABYMETAL FUJI ROCK ’16 ライブ レポート

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1.

上越新幹線「Maxとき303号」は、1分ほど停車をして、のちに、大宮駅をのそりと出発した。
次の停車駅は越後湯沢駅。おおよそ50分の行程。
僕は口元に薄い笑みを湛えたまま、2階席の車窓から覗く街並みをぼんやりと眺める。
5日前のAPミュージックアワードの映像が未だに脳裏に焼き付いている。

 

「ライブは戦いだと思っているんですよ。それはお客さんとの戦いでもあるし、
自分自身が最後までやりきるっていう意味の戦い」

 

2014年の12月、NHKニュース「おはよう日本」の特集番組で、ヴォーカルのSU-METALは、
インタビュアーの吉田メタルこと吉田一貴アナウンサーに対してそのようなことを語っていた。
それから1年半の時を経て、去る7月17日の「Chicago Open Air Music Festival」では、
Huff Post Detroit の音楽ライター Kelly Frazier によるインタビューの中で、
「来ていらっしゃる皆さんのために」、彼女はこう答えている。
「どうやって今日を素晴らしい夜にするのかについて、新しいレベルに進もうとしています」
※参照:ハワイとプログレとBABYMETAL様

 

日本語で受け答えたインタビューを英文へ翻訳、さらにそれを日本語に訳して戻しているので、
SU-METALの一言一句やニュアンスは正確ではないのかもしれないが、それでも大枠で見ても、
「ライブは戦い」という彼女なりの定義に大きな変化が起こっていることは窺い知ることができる。
最初はライブを完遂するのに精いっぱいだったのが、ライブを重ねていくうちに余裕が生まれ、
今では、来場した観客たちにいかに楽しんでもらうかというのを念頭にライブに臨んでいる。
濃密な1年半の間で得た経験が、彼女を含む3人の意識の変革を促したことは容易に想像がつく。

 

その最たる例は、今年のワールドツアーから繰り出してきた新たな客煽りやC&Rである。
具体的な楽曲は「メギツネ」、「Catch me if you can」、それと「KARATE」。
本番で実践しながら改良を繰り返し、試行錯誤の末に手にしたこれらの各曲は、
今ではライブでのキラーチューンとなり、観客たちを一段上の熱狂に導くことに成功した。
そして観客たちの反応から得た自信を胸に、3人は、先日のAPミュージックアワードでも、
アウェイな環境であるにもかかわらず、堂々と煽り付きのパフォーマンスを行ったのである。
その後のRob Halfordとのコラボ2曲においても客を楽しませるという要素は多分に含まれていた。

 

ワールドツアーを慣行しながら、ステージングの進化を続けていくBABYMETAL。
その彼女たちのライブを、日本で目にする日がようやく来たる。
少しばかり彼女たちのステージを想像するだけで唇の隙間から歯が覗く。
僕はなんとも締まりのない顔つきのまま、1時間弱、電車に揺られ続けたのだった。

 

 

 

時刻は8時10分を過ぎたあたりだった。
程なくして列車は越後湯沢駅に到着した。
階段を下りて外に出ると目の前には行列ができていた。
苗場スキー場へ向かうシャトルバス乗り場がそこだった。

 

 

 

運賃の500円を支払ってバスに乗車し、一路目的地へ向かう。
木々が生い茂る山々を眺めていても新潟に来たという実感は沸いてこない。
むしろ地元の九州の山並みを思い浮かべるばかりだった。
カブトムシやクワガタ捕りに夢中になった幼少時代をふと想起し、幾ばくか郷愁の想いに駆られた。

 

今年で20周年を迎える「フジロックフェスティバル」。
同フェスは、「自然と音楽の共生」を目指し、1997年夏、富士山麓・天神山スキー場で誕生した。
初年度は台風の直撃を受けて2日目を中止したものの、翌年に会場を東京の豊洲に移して開催。
苗場スキー場に会場を移し、今のフジロックの基礎が築かれたのは1999年のことである。

 

10年以上も前のことだけど、一度、知人とフジロックに行く計画を練ったことがあった。
しかし結局はその計画は途中で頓挫し、フジロックに行くことは叶わなかった。
爾来10数年、遂に僕はフジロックの会場へ到着した。
特に思い入れがあったわけではないけど、一生に一度は来たいと思っていたフェスだった。
バスを降り、大きく息を吸い込むと、草木から放たれる自然の匂いが否応なく鼻孔を刺激した。

 

 

 

バスを下車してから最初に向かった先は、場外に設営されている物販エリアだった。
到着するなり、BABYMETALのTシャツのS、Mサイズが売り切れたというアナウンスを耳にした。
僕は急いで物販列の最後尾に並ぶ。
幸いにもLサイズのTシャツは購入することができた。

 

 

 

その後は人の流れに倣い、入場口に向かった。
やがてエントランスが視界に入ってくる。
入場口の周りの風景が、ここが山中であることを端的に示している。
懐かしき記憶が再び蘇ると、口元は自然と綻び、心は幾ばくか弾んだ。
なんとも言えない幸福感を懐に孕んだまま、僕は悠々とゲートを通過していったのだった。

 

 

 

 

2.

 

橋を渡ると急に視界が開けた。
そこらじゅうで人々の頭がうごめいている。
MAPで確認すると、ここらあたりが有名な苗場食堂のようだった。
僕は立ち止まると、フジロックにやって来た実感を確かめるように周囲をぐるりと見渡した。

 

 

 

MAPで位置を確認しながら会場の奥へ歩を進める。
小さな橋を渡り、枝葉のトンネルを通り抜け、やがてGREEN STAGEへ到達する。
ステージを背に後方を向くと、山肌の傾斜には、そこかしこにレジャーシートを広げ、
まるで日光浴を楽しんでいるかのようにキャンプチェアに身を投じている人々が視界を占領した。
その光景を目にするや、一瞬にして、これがフジロックの楽しみ方なのか、と理解した。
来場者の何割かはアウトドアの延長で音楽を愉しもうとしているといった印象を受けた。

 

 

 

僕は森の中をさらに奥へと進んでいく。
鮮やかな深緑が、来訪者の助けを買って出て街道一面に影を落とし、一抹の涼を提供している。
川のせせらぎは鼓膜を通じて意識下にささやかな清涼を与えてくれる。
欄干の色鮮やかな装飾はお祭りムードを盛り上げ、行き交う人々の足をしばし引き止めている。

 

 

 

やがてWHITE STAGEが視界の中に入ってきた。
今宵、BABYMETALがライブを行う会場だ。
横に狭いから、どうしても小さい会場だという印象を受けた。
最前は既にメイトが占領しているようだった。
彼らはこの炎天下の中、BABYMETALが登場する8時間後まで待ち続けるのだろう。
僕はステージを眺めながら小路を進み、さらに奥の会場へと向かった。
一通り会場を歩いて見てみようという思いを胸に、最奥エリアを目指す。
ORANGE CAFEまでやって来ると、僕は一息いれる代わりにアイスクリームを購入した。
1つ500円もするので味わって食べようと思ったが、意地の悪い直射日光が僕の思惑を阻害した。

 

 

 

その後は来た道を戻り、少しばかりGypsy Avalonでザ・なつやすみバンドを堪能する。
スチールパンやトランペットによるトロピカルなサウンドがなんとも心地よい。
自然の風景と見事に落ち合った音色に耳を傾けていると心が浄化していく感覚を抱いた。
彼らが奏でる音楽は、リアルな山の音楽家といった体を成しているようにも感じられた。

 

FIELD OF HEEAVENへ移動したのは12時を過ぎたあたりだった。
そこではちょうどdCprGがサウンドチェックを行っていた。
ステージの近くまで行くとすぐに彼の姿が目に留まった。
神バンドの大神様こと大村孝佳の凛々しい姿に思わず感嘆の声が漏れる。

 

 

 

12時半にリーダーである菊地成孔が挨拶を始め、その後、おもむろにライブがスタートした。
アフロビートやファンクの独特なリズムが観客たちを魅了する。
大村孝佳のギターソロの際には、会場のあちこちから歓声が上がった。
詰めかけている観客の至るところにメイトが混在しているのだろう。
彼らのライブを半分ほど鑑賞したところで、僕は後ろ髪を引かれる思いでその場を後にした。
他にも観たいと思っていた幾つかのバンドがライブを始める時間だったからだ。
ボードウォークを一気に進み、GREEN STAGEまで戻る。

 

 

 

GREEN STAGEでしばらくの間2CELLOSを鑑賞すると、僕は入場口方面へさらに戻っていった。
時間にあまり余裕がないので駆け足で進んでいく。
RED MARQUEEに着くと、幸いにも、まだDMA’Sがライブを行っていた。
ホッと息を吐いて安堵しながら、5,000人収容の大型テントの中へ入っていく。
彼らのライブを観るのは昨年のレディングフェスティバル以来2度目だった。
寸刻、ヴォーカルのトミー・オーデルの美声に酔いしれる。

 

 

 

苗場食堂で軽めの食事を摂った後は、同ステージで続けてTROYE SIVANのライブを観た。
その際、後方から、知らない男性に声を掛けられた。
彼は僕が着ているDOWNLOAD FESTIVALのTシャツを指差しながら、
フェスを観に行ったのか、DISTURBEDを観たのかと矢継ぎ早に質問してきた。
フェスは観に行ったが、日にちが違ったのでDISTURBEDは観ていないと答えると、
彼は、自分がいかにDISTURBEDがお気に入りのバンドであるのかを力説した。
そんなにラウドな音楽が好きなら、BABYMETALも観ておいて損はないよ。
控え目に僕がそう進言すると、彼は少し考えたのち、わかったというように首肯した。

 

 

 

TROYE SIVANを観終えると、僕は再びGREEN STAGEに向かった。
そこでしばらくの間、STEREOPHONICSのライブを堪能した。
会場は見渡す限りたいへんな人だかり。
そして彼らのライブが終わる頃に、僕は満を持してWHITE STAGEに向かったのだった。
そこでROBERT GLASPER EXPERIMENTのライブをやや後方から鑑賞する。
盛況ののちに彼らのライブが終了すると、次はいよいよBABYMETALの出番となった。

 

 

 

同時刻にGREEN STAGEで行われている横山健のライブを観るのはハナから諦めていた。
BABYMETALのライブが入場規制になることは事前に予測できていたからだった。
僕は人々の合間を縫うように進むと、モッシュピットの中央付近に位置を得た。
ステージ後方にBABYMETALのバックドロップが掲げられると周囲から大きな歓声が上がった。

 

 

 

神バンドが登場してくると会場のボルテージは一気に上がった。
それぞれの神の名前を呼ぶ声が空中で錯綜する。
風船が飛び交う中、神バンドが「あわだまフィーバー」を演奏してサウンドチェックを始めると、
やはり音だけでも堪能したいのだろう、一転して会場は水を打ったような静けさに包まれた。
そして神バンドが演奏を中断するたびに一際大きな歓声が場内にこだました。
音圧は昨年のメトロックほどではないが、十分に納得がいく音響のように感じられた。
神バンドが一旦袖にハケると、メイトたちは定期的にBABYMETALコールを合唱した。

 

場内が次第に熱気に包まれていく中、僕はふと気になって上空に目を向けた。
瞬刻、眉を顰める。
それはまさにデジャブだった。
僕はこの曇天の空を、訝しむ視線で、先月も眺めていた。
すると案の定、あのDOWNLOAD FESTIVAL UKのときほどではないが、
開演直前になって、またしても雨がぱらぱらと落ちてきたのだった。
しかし幸いにも、その雨は、本格的な大降りになることはなかったのだった。

 

開演時間が押し迫ってくる中、僕はぐるりと周囲を見渡して観客たちの様子を目に留める。
PA卓のテント前にも随分と初見の人たちが集まってきている。
僕の真後ろにいる5~6人の集団もその手の類だった。
彼らは多種多様なカラフルな色のTシャツを着ていたからすぐにそれだとわかったのだが、
仲間内で交わしている会話からも初参戦であることは伝わってきた。
そしてその集団の1人、ピンク色のフジロックフェスTを着た若者が、
仲間の忠告を無視し、延々とBABYMETALをひやかすようなことを口走っていたのだった。
僕は彼が発する声を耳にしながら無言でステージ上を眺め続ける。
数分後、君は瞬く間にBABYMETALを認め、軽口を叩けなくなるんだよと内心で思いながら。

 

モッシュピットのほぼ真ん中であるのに、随分と女性客が視界に映っている。
大丈夫かなと憂心を抱いたところで定刻となり、ビジョンに映像が流れ始めた。
刹那、観客たちが一斉にキツネサインを掲げ、歓喜の声を上げる。
4月の限定ライブを除けば、昨年12月の横アリ以来の日本でのライブ。
メイトたちの待ち焦がれた思いが堰を切って止めどなく溢れ出ている。
振り続ける小雨は、そんな彼らの熱情を推し量り、代わりに感涙しているようにも思えた。

 

 

 

 

3.

セトリ

01. BABYMETAL DEATH
02. ギミチョコ!!
03. Catch me if you can
04. ヤバッ!
05. イジメ、ダメ、ゼッタイ
06. メギツネ
07. KARATE
08. Road of Resistance

 

「BABYMETAL DEATH」でスタートするライブはいつだって身震いがする。
長めのイントロは、気持ちを昂ぶらせていく猶予を観客たちに与え、
のちに爆発的な熱狂を引き起こす導火線の役割を果たしている。
空気を裂くドラムの音が、喧々囂々として、大自然の静けさを打ち破る。
薄暮の空を背景に激しく点滅するライトは、網膜を通じ、観る者の脳を活性化させる。
迸る照明に麗しき漆黒の美髪を曝しながら、3人がステージ中央でポーズを決めると、
観客たちの多くはキツネサインを空高く掲げて彼女たちの凱旋を歓迎した。
ピット中央では早くもサークルが形成され、WOD、サークルモッシュと雪崩れていった。

 

やはり日本のライブでのモッシュは激しい。
危険を察知した何組かのカップルが横の方へ逸れていく。
サークルモッシュの途中にメイトの一人が躓いて倒れこんだ。
僕はサッと両手を上げ、後方に向けて「ストップストップ」と声を張る。
DOWNLOAD FESTIVAL UKで、負傷した2人の女性が運ばれていくのを
眼前で目撃しているから咄嗟に取った行動だった。
結局、ライブ全体を通しては、5、6回ほど、僕は同じように声を張り上げたのだった。

 

気が付けば、初見のあのピンクTの若者も、笑顔でサークルモッシュに加わっていた。
何人かは自主的に避難したようだが、モッシュに参加している女性の姿もちらほらと目についた。
老若男女関係なく、サークルモッシュに参加している人たちは誰もが笑みを浮かべ、
ぐるぐると回りながら円の外にいる人たちと楽しげにハイタッチを交わしている。
後方の様子は分からないが、ピットは終始混乱を極め、ぐちゃぐちゃの状態を維持していた。

 

続いて「ギミチョコ!!」が始まると、モッシュはさらに激しさを増していった。
多くの若者が歓喜の声を上げて体をぶつけ合っている。
ふと視界の隅で、知った顔のメイトを発見したのはそんな折だった。
彼の姿を目にするのは昨年のレディングフェス以来、約一年振りだった。
「うっうー!」という意味不明なツイートをよくするそのお方は、
恍惚の表情を浮かべたままステージの方を眺め続けている。
間違いなくYUIMETALを凝視しているのだろう。
久しぶりに彼の姿を見て嬉しくなった僕は、すっすーといった感じで彼の背後に滲み寄った。
そして後方から、ふっふーと興奮混じりに彼の右腕をいきなり掴むと、
「アタタタタータ」と大声で歌いながら、彼の右腕と一緒に自分の腕を振り続けたのだった。
反応が鈍かったので、僕は再度彼の腕を掴み直すと、続けて「ネバネバネバー!」叫んだ。

 

おそるおそるといった具合に、彼の視線がこちらを向いた。
だけど彼は僕と一切目を合わせようとはしなかった。
得体の知れない物でも見た時のように、完全に目が泳いでいる。
無理もない。僕は彼を知っているが、彼は僕のことは知らない。
だから間違いなく僕のことを気持ち悪い人だと思っているのだろう。
彼はそれとなく僕の腕を振り払うと、逃げるように、つっつーと前方へ移動していった。
僕はくっくーと笑みを零しながらピットの中央へ戻っていった。

 

曲は3曲目の「Catch me if you can」へと続いていく。
神バンドの面々が、今年のワールドツアーで披露しているソロパートを披露する。
相変わらず各自、痺れるほどに上手い。
3人が元気よく「ハイ! ハイ!」と声を弾ませながら躍り出てくると、
ピットもそれに合わせてサークルモッシュを再開した。
ピットにいる誰も彼もがBABYMETALのライブを心底満喫している。

 

途中に、メイクサークルの煽りが始まる。
SU-METALが笑顔で「ショウミー、ビッグサークル。ビガービガー」と叫ぶ。
MOAMETALが可愛らしい声で「ちゃんと見えてるよ」と続く。
YUIMETALは、よく聞こえなかったのだが、「もっともっと」と叫んでいるようだった。
3人に煽られて騒ぐ行為はいつだって楽しくて仕方がない。

 

続く曲は「ヤバッ!」だった。
イントロが始まるや、僕はその場ですぐにツーステップを踏む。
嬉しいことに、僕の前の人も同じようにツーステップを踏んでいた。
ふと周りを見れば、僕ら2人に追随して何人かのメイトもツーステップで踊り始めた。

 

ここに至ってようやく、SU-METALの声の調子に意識がいった。
僕には、高音域のところどころで、声を出すのが苦しそうに感じられた。
もしかしたら帰国後に夏風邪でもひいたのかもしれない。
特別調子が悪いという印象はないのだが、たとえば横アリ等の絶好調時を知っているだけに、
胸の動悸に耳を澄ませるような心もちで、少しばかり彼女の体調を気遣った。
僕には知る由もないが、イヤモニ等、歌い難い要因は他にあるのかもしれなかった。

 

終始観客たちが踊り狂って盛り上がった「ヤバッ!」が終わると、
少しの間をおいて、「イジメ、ダメ、ゼッタイ」のイントロが流れてきた。
途端にメイトたちが大きなサークルを作り始める。
そしてSU-METALの咆哮に合わせ、僕も含めたメイトたちはWODを敢行したのだけれど、
みんなの走る速度が、危険を感知するバロメーターを振り切った勢いだったから、
幾ばくか恐怖心を抱いた。
直後、案の定サークルの中央では数人のメイトが押し潰されていた。
僕はそこでも「ストップ」と声を張り上げ、1人のメイトの腕を掴んで強引に引っ張り上げた。

 

間奏に入ったところで、再び大きなサークルモッシュが発生した。
僕は、人が流れていない中央に進むと、ツインギターの音色に合わせてエアギターをかます。
昇天しそうなほどの陶酔感に、しばし酔う。
ちらりと周囲を一瞥すると、自分と同じようにエアギターをしているメイトの姿が目に付いた。

 

ふと視線がステージに釘付けになったのは同曲が終わった直後だった。
3人はこちらに背を向け、次曲に備えて水分補給を行っていたのだが、
その際、SU-METALが、左右の2人の背中を交互に手のひらで擦っているように見て取れた。
僕の目には、SU-METALのその行為は、最後まで頑張ろうと2人を励ましているように映った。

 

これは個人的な憶測だが、ワールドツアーを終えたばかりの3人は、
かなり疲れが溜まっている状態で今日のステージに臨んでいるのかもしれなかった。
この位置からでは、YUIMETALとMOAMETALのダンスの切れ味まではわからないが、
もしかしたら、いつもよりほんの少しキレがなかったのかもしれない。
しかしそんな過酷な状態であったとしても、これまでに3人は、
互いを気遣い、励まし合って、すべてを乗り越えてきた。
3人による強い絆は、「この3人じゃなければBABYMETALじゃない」という
SU-METALの力強い言葉に集積されている。

 

3人が一息入れた後に続けた曲は「メギツネ」だった。
息つく暇もないセットリストに、メイトたちは苦笑するほかなかった。
サークルモッシュで走り過ぎたせいか、横腹は少し痛くなってきていたのだが、
曲が始まるや、僕は嬉々としてジャンプし、「それっ!」と大きく声を張った。
自分でも驚くほどの跳躍で繰り返しジャンプする。
体は疲れ始めてきているのだが、どうにも気分がそうさせまいと僕を体ごと鼓舞している。

 

「メギツネ」のブレイクダウンでも客煽りが始まる。
SU-METALが英語で「シットダウン!」と命令する。
夜空の重みに圧されたかのように身を屈める観客たち。
そして「1、2、3、 ジャンプ!」で、今宵もピットは爆発したのだった。
その光景を僕は、1ヵ月半程前に、ドイツ、イギリス、フランスの各会場で目にしてきた。
今日の観客たちは、異国のキツネたちにも勝るとも劣らない爆発力を見せている。
ピットのほとんどの観客は手を上げジャンプし、体を揺らして目いっぱい今を楽しんでいる。

 

絶叫に近い歓声が飛び交う中、ライブはそのまま「KARATE」へと続いた。
イントロが聴こえてくると、僕は内心で「キタキタキタ!」と叫ぶ。
通勤途中に、ながらでiPodで聴いていても、「KARATE」のイントロが始まった時だけは、
意識を集中し、同じように内心で「キタキタキタ!」と叫んでいる。
おそらくはDOWNLOAD FESTIVAL UKを境に、僕は同曲に完全にハマったと思われる。

 

上半身を前後に大きく揺らす多数のメイトの姿が目につく。
彼らはみな、全身でグルーヴを感じているのだろう。
頭が上下にぶれるから、ピット全体が夜の海のようにゆらゆらと波打っているようだった。
雑念の類は、ほとんど、考えることさえできないほど、意識の外に追い出されている。

 

セイヤソイヤ戦うんだ、と一緒に歌う人が多い。
YUIMETALとMOAMETALに合わせて「WOWOW」と拳を突き上げるのはマストだ。
SU-METALの力強い歌声は、歌詞以上に、
これからの人生を強く生きろと奮い立たせてくれているようでもあり、
彼女の歌声を聴いた僕は、毎回、どうにも感慨無量の境地に陥ってしまう。
そうして心酔しきった中、彼女のエモショーナルな煽りが始まる。

 

SU-METALが、ワールドツアーのときと同じように、英語で観客たちに話しかける。
「今日の気分はどう? あなたたちの声を聞かせて」
そのたびに、観客たちは、大声を出して彼女の訴えに応じる。
そして彼女と観客たちの呼応は情熱的なコール&レスポンスへと続いていった。
その後の「エブリバディジャンプ」で再びピットは爆発する。
まるで弩にでも弾かれたように、観客たちが狂ったようにジャンプする。
今宵のピークを迎えた瞬間だった。

 

それにしても、ライトアップされた中で踊る3人の姿は神々しく、とても美しい。
MOAMETALは歓びを、YUIMETALは奥ゆかしさを自然と醸し出しながらジャンプしている。
しかしながら、このシーンでやはり目がいくのは、ジャンプしながら唄い続けるSU-METALの姿。
ポニーテールはあれほど激しく揺れているのに歌声のトーンは一切揺るがない。
そして最後の「走れ」を刮目して眺めていると、今回もまた僕の両腕には鳥肌が立ったのだった。

 

「KARATE」の余韻が冷めやらぬうちに、最後の「Road of Resistance」が始まった。
ピットには再び大きなサークルが形成され、何人かの若いメイトが、
まるで熱病にうなされているかのように、ふらふらとスペースを彷徨っている。
僕はタイミングを見計らいながら、サークルの中に歩を進めていった。
そしてギターオーケストレーションの音色に合わせ、そこでも、
自分の世界に入り込んでエアギターに興じたのだった。
なんともいえない快感が頭の中心で弾けていく。

 

その直後に発生した Wall of Death も、僕は嬉々として参加した。
不思議なことに、ずっとここまで騒ぎ立てているのに、体は意外と疲れてはいなかった。
僕は怒涛のビートに合わせて激しくヘドバンを繰り返す。
サークルモッシュが始まれば、軽快な足取りでぐるぐると回り続けた。
そして中央に移動するとピロピロに合わせて三度エアギターを繰り出した。

 

その後のシンガロングでは大合唱が起こった。
視界に映る人たちはみな、感極まったような顔つきで拳を天に突き上げている。
震えるほどの感動を胸に、ちらりと右後方に視線を向けると、
なにやら白い大きな旗を両手で掲げているメイトの姿が目についた。
しかしよく見ればそれは旗ではなく、「ゆいちゃんまじゆいちゃん」と書かれたポンチョだった。
それを持っているのは、日曜の朝8時半になると決まって「プリケツプリケツ」と連ツイする、
あのうっうーおじさんその人だった。

 

確かに、僕は、彼にそのポンチョをフジロックに持って来てといったリプライを送っていた。
しかし96.5%は冗談だった。
だけど彼は、3.5%の僕の本気を汲み取り、そのポンチョを持参してきていたのだった。
そんな彼の姿勢を意気に感じた僕は、なにか手伝えないかという思いで彼の方へ近づいていった。
そしてポンチョの端を掴んで少しばかり「WOWOW」と一緒になって叫んだ。
もしかしたらYUIMETALの目に留まっているかもしれないぜ! そんなふうに思いながら。
しかし彼は戸惑いの色を見せると、ぶっぶーとでも言うように唇を尖らせ、
また逃げるようにしてつっつーと僕の傍から離れていった。
むっむーと僕はその場に固まる。
どうにも彼の中では僕は要注意人物に指定されているようだった。

 

その後はSU-METALが豪儀に「レジスタンス」と歌い上げてライブは終了となった。
観客たちの大歓声が大きなうねりとなって会場中を揺るがしている。
それから3人が恒例のC&Rで締める。
3人の「WE ARE?」に応じ、観客たちが大声を張る。「BABYMETAL!」
ちなみにSU-METALの言う、2つ目の「WE ARE?」は、しゃんろん氏の好みのパターンだった。
そして「SEE YOU!」と言い残して3人は袖にハケていった。
観客たちがBABYMETALのチャントをもって、彼女たちのパフォーマンスを称賛する。
僕は周りにいる人たちと断続的にハイタッチを交わし続けた。
スペシャルな時間を共有したことを互いに確認し合う儀式のように。
ハイタッチを交わす若い彼らはみな、終始キラキラとした笑顔を覗かせていたのだった。

 

こうして、50分間の彼女たちのライブは、大盛況ののちに幕を閉じた。
「あー、楽しかった!」
ステージを後にする際、思わず僕はそう口にしたのだが、
周りにいた人たちの何人かが同意するようにうんうんと首肯してくれたのはとても嬉しかった。
やはりBABYMETALのライブは、フェスだろうが単独だろうが、
日本だろうが異国だろうが、どの場所で観ても最高に楽しい。

 

 

 

 

4.

WHITE STAGEを後にし、GREEN STAGEに向かう。
通路は大変な混み具合で、そこに移動するのには予想以上に時間がかかった。
TLで確認すると、入場規制の状況でも、続々と多くの観客が詰めかけていたとのこと。
中には、川を渡り、山中からWHITE STAGEのステージを眺めていた人もいたらしい。

 

その後はGREEN STAGEでBEN HARPER & THE INNOCENT CRIMINALSのライブを観賞した。
そしてRED HOT CHILI PEPPERSを少しだけ観て、僕は会場を後にした。
最終の新幹線で帰らなければいけなかったから、それは仕方のない決断だった。
シャトルバスに乗ると、僕は今日一日を振り返った。
楽しかった余韻が、自然と僕をリラックスした気分にさせてくれる。

 

たった一度の来場で分かったようなことを口にするつもりはないのだけれど、
各々のステージの後方には、決まって椅子に座っている多くの観客がいたから、
いわゆるフジロックスタイルというのは、壮大な自然の環境に身を委ねつつ、
そのうえで、「ながら」で音楽を愉しむスタイルのことを言うのだろう。
もちろん熱心なファンはステージ近くに陣取るだろうが、ライブは放っておき、
川や木陰や丘陵で、和気藹々と過ごしている家族連れの姿も多く目にしたから、
あながち間違った見解ではないように思う。

 

そう考えると、やはり今回のBABYMETALのフジロックへの出演は、
かなり異質であったと言わざるを得ない。
彼女たちの音楽は重厚なヘビーメタルサウンドであり、
お世辞にも自然とマッチしているとは言い難い。
そもそもメタルのライブはスタンディングを基本線としているので、
「ながら」ではなく「前のめり」で聴く音楽だ。
モッシュが発生することから、全身で浴びる音楽と形容してもいいかもしれない。
だから、参戦が決定した時から言われていた「アウェイの環境」というのは、
こういったミスマッチに端を発した言葉だったのだなと今になって思う。
実際に会場に足を運んでいろいろと見て回ったことで、そのことが十分に理解できた。

 

誤解を恐れずに言えば、フジロックスタイルでフェスを楽しんでいる人の中には、
フジロックが提唱する「自然と音楽の共生」という魔法のワードに縛られた、
ステレオタイプの人たちもそれなりにいるのではないだろうか。
別にそれが悪いと言っているのではない。
僕だってそれが素敵なスタイルだとイメージすることができたなら、
あまり深くは考えずに長い物に巻かれ、右に倣っていたことだろう。
指摘したいのは、そういった自然を満喫しながら「ながら」で音楽も愉しんでいる人たち、
特にBABYMETALのファンではない人たちまでもが、スペースを確保していた場所から腰を上げ、
渋滞でなかなか前に進めない状況でも大挙としてWHITE STAGEへ押し寄せたという事実。
後方の客は地蔵ばかりで盛り上がっていなかったと揶揄するような情報も目にしたが、
BABYMETALのライブを初めて観る者は、括目していないと高速で情報を処理できないから、
それは初参戦時における、至極まっとうなリアクションである。
そのことはメイトであれば誰もが分かっている。
誰だって最初はそうだったからだ。
容認すべき大切なことは、BABYMETALという稀代のアクトが、
多くの人たちにとって興味を抱かせる対象であったということ。
アウェイの環境をものともせず、今回のライブは成功だったと断言できる一番の要因は、
これほどまでの初見の人たちを呼び寄せたという現実に尽きるだろう。
もっとも、実際にライブを観て魂を昂らせていった初見の人もかなり多かったとは思われるが。

 

 

 

では今後、BABYMETALがまたフジロックに出演することはあるのだろうか?
それは僕にはわからないが、WHITE STAGEでやるのはおそらく今回限りだろう。
フジロック公式がこういったツイートをしているうちはやはり難しいと思われる。

 

 

ほとんどのステージで、会場の後方の半分ほどは、どこもかしこも、
デッキチェアやキャンプチェアで一面が支配されている状況だった。
それはWHITE STAGEでも同様で、開演前は、会場の後ろ半分は似たような状況であった。
そしてBABYMETALのライブが行われている最中も後方の様子にはあまり変化はなかったようで、
PA卓のある中央テントより後方は、椅子に座ったままの観客が一定数そのままいたらしいが、
しかし彼らに罪の意識はほとんどなく、そもそも彼らに非はないのだろう。
彼らは単純に、普段どおりのフジロックスタイルを満喫していただけであり、
フジロック公式によるこのツイートもそれを示唆するものとなっている。
PA卓の前は遠慮するようにと訴えてはいるが、入場規制がかかるほどパンパンの状態であっても、
PA卓の後ろに関しては、椅子に座ったまま観賞するフジロックスタイルを黙認している。
だから今後BABYMETALがフジロックに出演するようなことがあれば、
スタンディングのキャパ的にメインステージであるGREEN STAGEでやるしかないのだろうが、
果たしてフジロックがそのブッキングをするのかどうかは、個人的には微妙に思っている。
願わくば、一度でいいから、あのすり鉢状の巨大な会場で観てみたいのだけれど。

 

また、InterFM 897のラジオDJが、BABYMETALを非難する発言をしたようだが、
これはもう完全スルーがいいだろう。
チームBABYMETALは、常に前だけを見据えて道なき道を突き進んで行っているので、
僕たちメイトは、仮に足を引っ張ろうとする輩がいれば、
対象を攻撃することなく軽く足蹴をしてこれを往なし、
チームBABYMETALを信じて付いていくことだけに集中するべきである。
すでに世界各国の主要な音楽メディアや錚々たる実力派のアーティストたちが、
BABYMETALを認め、BABYMETALを支持し、BABYMETALを愛している状況なのだ。
これ以上の批評を、いったい誰に求める必要があるだろうか。
少なくとも、彼女たちの経歴を掘り下げて調べることなく、本質を理解しようとしない
日本の音楽関係者たちの薄っぺらい批評はこちらから願い下げである。
本物は本物を知る。
ワールドスタンダードの目で推し量らなければBABYMETALを正当に評価することはできない。
これまでも。そしてこれからも。

 

今夜のBABYMETALのライブの内容について少しだけ掘り下げてみる。
おそらく野外のフェスで、夕闇が迫る時間帯にライブを始めたのは初だったと思うが、
日が完全に落ちた後は、音と光とダンスによるスペクタクルなショーであった。
ひんやりとした自然の空気の中で観るBABYMETALの夜のライブショーはとても幻想的で、
たとえば横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナの巨大な空間で観たそれよりも感動的だった。
日光の下での笑顔弾けるショーも素晴らしいが、闇夜に光線が浮かぶショーも大変な趣があった。
残念ながら今回のセトリにもなかったが、こういった雰囲気の中であれば、
「THE ONE」を披露してもよかったのかもしれない。
初見の人も、サビのコーラスはすぐに唄えるだろう。
夜の帳をライトが照らす中、会場全体が1つになって「ララララ~」と大合唱する。
想像するだけで鳥肌が立ってくる。
それはきっと素敵な空間となること間違いない。
ファンとの一体感を共有する「THE ONE」がフェスで披露される可能性は限りなくないのだろうが、
僕は一握りの淡い願望を持ち続けずにはいられない。

 

今日は全体を通してモッシュピットで騒ぎまくっていたので、
ステージ上の3人の調子を細かく確認する余裕はなかったのだけれど、
ライブが終わった直後のTL上には、彼女たちのパフォーマンスを賞賛する声で溢れていた。
また、初見の人たちによる同様のツイートが多かったことは単純に嬉しく思った。
ただ個人的には、僕は最初からパフォーマンスの内容についてはほとんど意に留めていなかった。
各都市の会場でファンを魅了し、APミュージックアワードでは伝説を築き上げての
凱旋公演であったから、「おかえりなさい!」と労う気持ちで今日のライブに参戦していた。
だから元気そうな彼女たちの姿を生で一目見ただけで僕の心は十分に満たされたのだった。

 

国内4大フェスの先陣を切ってフジロックフェスティバルに登場したBABYMETAL。
彼女たちは今回も圧巻のパフォーマンスで、多くの初見の人たちに大きなインパクトを与えた。
来月は残りの3つのフェスに出演するわけだけど、今からもう楽しみで仕方がない。
短期間で幾つかのライブに参戦できる喜びを噛み締めながら僕は今日も生きていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

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