BABYMETAL 海外 シュツットガルト ライブレポート

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1.

開演前からホール内に立ちこめていた熱気は、ここにきてさらに濃度を増したようだ。
ピットの中央で大量の汗を噴き出しながら、果敢にも僕はデカい奴らに挑み続ける。
グッと踏ん張り、上体を硬直させ、力強く何度も肘でゴリゴリと押す。
が、今回もほとんど効果はなく、軽く押し返された僕の体は、まるで弾かれたピンボールのように、
右から左へ、あるいは前へ後ろへと、不規則な軌道を描きながら無抵抗にふらふらするばかり。
山のように微動だにしない彼らは、まるでそれを楽しんでいるといった具合にニヤニヤしている。
その瞳は、友好の色を滲ませながらも、さも誇らしげにこう語っている。
「よう、そこの日本人の痩せこけたおっさん。俺たちに挑もうなんて100年早いぜ。出直してきな」

 

モッシュの荒波に揉まれながら僕はギュッと唇を噛み締めた。
周りにいるのは、体格の良い、肉厚のドイツ人ばかり。
まさにデジャヴ。10ヶ月前のあの夏の日とまったく同じ光景だった。
メガトン級のモッシュの洗礼を浴び、デカい奴らにボコボコにされた忌々しい記憶が蘇る。

 

 

今夜のライブで周りにいたデカい奴 その①

 

 

今夜のライブで周りにいたデカ奴 その②

 

そもそもハナからこんな奴らに勝てるはずなどなかった。
一体全体、誰が昨年のベルリンのリベンジだと僕を捲し立てたのだろう。
いや、そう意気込んだのは、何を隠そうこの僕自身なのだが、
僕にそう焚き付けたのは、紛れもない、あいつだ。
彼のあの一言が、僕に、こんなにも無謀で危うい幻想を抱かせたのだ。

 

 

→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→

 

 

数日前。
その日は朝から客先まわりをしていた。

 

「最近の先輩って随分とオヤジクサくなりましたよね」
外回りから帰る途中、ふと立ち寄った喫茶店で、いきなり後輩のK山くんに指摘された。
口元を歪め、怪訝な表情で見返すと、彼は「だってほら」と言って僕の手元を指さした。
「今だっておしぼりで顔をごしごしと拭いてたし」

 

――うるさいな、ほっとけよ。

 

そう言わんばかりに下唇をぬっと出してテーブルの上におしぼりを戻すと、
僕はアイスコーヒーに手を伸ばしてストローの先に口をつけた。
二口ほど口に含んでからコースターの上にグラスを置くと、
ストローをくるくると回してこげ茶色の液体に円を描いた。
グラスの中の氷がカランカランと涼しげな音を立てる。
どうも底のほうにガムシロップが溜まっていたようだ。甘すぎる。

 

「そもそも甘すぎるんですよ」
後輩の言葉にビクッとし、放心の顔つきで頭を上げる。
麻鈴よろしく、まさかテレパシーで僕の心を読んだのかとも思ったが、
彼の手のひらは僕の方には向いていなかった。
K山くんは、腑抜けた表情でいる僕をまじまじと見つめると、若干口元を歪めてから、
「先輩は自分に甘すぎるんです」、少し剣のある言い方で続けて言った。
「だからだらしのないオヤジになりつつあるんです」

 

「そんなことないって」間髪入れずに僕は言葉を返す。
「甘いのは、女性に対してと」、再びストローをくるくる回す。「このアイスコーヒーだ」

 

すると「だいたいそれも問題なんですよ」と、K山くんが眉を下げて言い返してきたので、
僕は唇を尖らせて「アイスコーヒーのどこが問題っていうのさ」とすぐに反論した。
「確かにこいつは甘すぎだけど、別に僕は糖尿病を患ってるわけじゃないんだからな」

 

「違います。それじゃないです」
K山くんはちらりとアイスコーヒーに目配せすると、溜息を挟んでから続けて言った。
「そもそも先輩のような小汚いおっさんは、世の中の若い女性たちには相手にされないんです。
だから女の子を甘やかしたところで一緒なんです。元から相手にされていないんですから」

 

「そ、そんなことわかってるよ」
言いながら、僕はアイスコーヒーに手を伸ばす。
ストローを咥えようとするがうまくいかず、上唇を2度ほど突いた。

 

「浮かれ具合の度が過ぎた、いい年したおっさんほど、気持ち悪いものはないんですからね」

 

後輩の言葉には反応せず、僕は肩をすぼめてストローでコーヒーを吸う。
正論だった。グーの音も出ない。
話題を変えよう、そう思い、口を開きかけた矢先だった。
まったく同じ台詞を吐いたのは後輩の方が先だった。「そんなことよりも、です」

 

「そんなことより……、なんだよ?」
「先輩って昔からよく自分は『アツい男だ』って言ってましたけど」
「けど?」
「最近の先輩からはまったく熱を感じないんですよ。オヤジ化以前の問題です。
仕事中も覇気がなく、目にも生気がない。まるで生きた屍のようです」

 

すぐには彼の言葉が呑み込めなかった。
ややあって、焦点がふらふらと後輩の顔から外れていった。
次第に目が見開き、段々と充血していくのが自分でもわかる。
怒りで唇がわなわなと震え出したのはその直後のことだった。

 

熱を感じない? い、生きた屍……だと!?
それっておまえ、死人同然じゃないか。

 

さすがに腹が立った。
僕はキリリとK山君を睨み付ける。

 

くっ、ふざけるなよ。
昔も今も僕は「アツい」男なんだよ!
飲み会の席では常に女性陣からアツ苦しいと敬遠され、挙句の果てには変態アツかいされるし、
風吹ジュン似のオールドミセスのSさんと目が合えばいつだってすぐに下半身がアツくなるんだ。
上司からはよく「おまえは心底アツかましい奴だな」と言われ、すぐにアツ轢が生じるし、
後輩のお前からは、いつも巧みな言い回しで変なアツをかけられまくっているではないか。
どうだ、まいったか!! 僕はこれほどまでに「アツい」のスペシャリストなんだぞ!

 

興奮を鎮めようにもすぐには熱は冷めなかった。
なぜなら僕が「アツい」男だからだ。
ちなみに好物はアツ焼き玉子。
寅さんことアツ美清は心の師匠だ。

 

少しばかり冷静になったところで、僕は思考を巡らせる。
なんとかこのクソ生意気な若造に僕の「アツい」ところを知らしめる手はないか。
はっ、そうだ。今、世の中で一番「アツい」ものといえばBABYMETALのライブではないか。
またK山くんをBABYMETALのライブに連れて行こう。
そうすれば、僕がいかに「アツい」かは再確認してもらえるはずだ。

 

妙案だ、とは思ったものの、彼と一緒にBABYMETALのライブに行くのは9月の東京ドームの予定。
随分と先だ。まだ3ヶ月以上ある。
うーん、どうしたものかと僕は深い溜息を吐く。
ちょうど今頃BABYMETALの3人はEU各国でツアー中か。
そういえば昨年のヨーロッパツアーも熱かったな。
特にあのベルリンでのライブの熱さといったらそれはもう……。

 

物思いに耽り始めた、まさにその時だった。
ベルリンのライブの光景を脳裏に思い描いた途端、ぶるぶると体が打ち震えた。
ライブ自体は心底楽しんだのだけれど、忸怩たる思いも後に残った。
あの時、僕は、デカい奴らにコテンパンにやられまくったのだった。

 

 

昨年のベルリンのライブの直後、僕が残したツイートがこれだ。
この一文には、実のところ、言いようのない無念さと怒りが潜んでいるのだ。
当時の記憶を呼び起こした僕は悔しさのあまり歯をガタガタと揺らす。
今の心境を「進撃の巨人」風で表すならこうだ。

 

その日、僕は思い出した。
奴ら(ドイツ人)に支配された恐怖を。
鳥籠(ドイツ人たちの作るサークル)に囚われていた屈辱を。

※あくまでもイメージです。食べられてはいません。

 

 

あの時のリベンジを果たさずに「アツい」男の復活などあろうはずもない。

 

 

近いうちに、あの巨人(ドイツ人)どもをすべて駆逐してやる……。
僕はエレン・イェーガーのように鬼の形相でそう胸に誓ったのだった。

Seid ihr das Essen?  Nein, wir sind der Jager!

 

 

 

 

 

というわけでドイツである。

 

ここシュツットガルトの市内で今夜、BABYMETALのライブが開催される。
ベルリンではないが同じドイツなのでリベンジを果たすにはうってつけである。

 

日中、僕は、宮殿広場やメルセデスベンツ博物館などを観光してまわり、
夕方、地下鉄に乗ってライブハウスへ向かった。
最寄駅で降り、ハイリゲンヴィーゼン通りを迂回して進む。
少し歩いたところでライブハウス「LKA-Longhorm」が視界に入る。
時刻は午後17時前。すでに100人ほどの行列ができている。

 

一番奥のVIPの列には多数の日本人が並んでいた。
よく見かける顔が多い。
昨年のフランクフルトのライブレポでも少し触れたが、
BABYMETALが海外でライブをやる目的は現地の人に見てもらうためなのだから、
最前はできるだけ現地の人に譲るべきではないか、その考えは今も変わらない。
だから1度や2度ならまだしも、毎回毎回最前に位置取る彼らの考えには賛同しかねるが、
そうは言っても楽しみ方は人それぞれだし、他人の僕にとやかく言う権利はない。
間近で観たい欲求は理解できるし、彼らは彼ら、自分は自分で楽しめればそれでよい。
彼らとは今後も相容れないだろうなと思いながら、僕はひとり、静かに列の最後尾に並ぶ。
僕の居場所はPITの中央付近なので今回もVIPチケットは購入していなかった。

 

列に並ぶや否や、激しい雷雨に見舞われた。
結局その雨は1時間ほど降り続いた。
冷たい雨に打たれながら開場を待ちわびる。
地蔵のように固まって、ただひたすらに過酷な状況に耐える。

 

列に並んでいる年齢層は青年から熟年の方まで幅広い。
ドイツだけではなく近隣諸国からも来ているようだ。
女性の姿もちらほらと目につく。
僕の網膜はカップルは認識できない仕様になっているから、残念ながらそれらの数は分からない。

 

それにしても欧米人は皆、体がデカい。
何を食ったらそんなにデカくなるのだろう。
きっと小さいときからデカかったはずだ。
ドッジボールの試合では間違いなく足を狙われていたに違いない。

 

開場まで1時間を切ったあたりで雨が小降りになってきた。
ありがたい。
もしかしたら、昨年のフランクフルトで出会ったニコが来てないかな。
ふと思った僕は、それとなくその場で叫んでみた。

 

「トノガタァー、ゼツリーン!」

 

しかし反応がない。
やはり偶然の再会なんて世の中そうそうないのだろう。
だから僕はとりあえず近くにいたキツネ(外国人メイト)の1人に「ゼツリン」と言わせてみた。
彼はよくわからないといった顔をしながらも従順に小さく口にしてくれたくれた。

 

やがて開場となり、ハウスの中に入る。
クロークに荷物を預け、フロアに出る。
このサイズの箱ならば一体感は確実に生まれるだろう。
そんな予感を胸に僕は開演時刻を待ち続けた。
開演10分前にはフロアはほぼ埋まっているようだった。

 

定刻近くになると自発的に「BABYMETAL」コールが起こった。
やがて暗転すると、会場のあちこちから怒号のような歓声が沸いた。
「BABYMETAL DEATH」のイントロが流れ始めるとその歓声はより大きくなった。
かくいう僕も興奮して大きな叫び声を上げた。
思えば小箱のライブを体感するのは昨年8月のベルリン以来。
忘我の境に入るのも致し方なし。血沸き肉躍るとはまさにこのこと。
周りにいる異国のデカいキツネたちよ。首の準備は整っているか?
さあ、人種を超えて一緒くたになって今宵は共に大いに盛り上がろうではないか。

 

 

 

 

2.

セトリ

01 ・BABYMETAL DEATH  動画①
02 ・ギミチョコ!!  動画①
03 ・いいね!  動画①
04 ・Amore – 蒼星 -  動画①
05 ・META!メタ太郎  動画①
06 ・Sis.Anger  動画①
07 Catch me if you can  動画①(神ソロ)
08 ・メギツネ  動画① 動画②
09 ・KARATE  動画① 動画②
10 ・Road of Resistance  動画①
11 ・THE ONE  動画①

 

※曲ごとの細かい描写は割愛します
PITの熱狂具合は上記のショートムービーである程度は分かるかと思います

 

「BABYMETAL DEATH」のリフが館内に轟くや否や、鳥肌が立った。
これはすごいライブになる。
直感が、僕の体に断続的に武者震いを引き起こす。
音響の細かいところまでは分からないが、とにかく爆音がすごい。音圧もそれなりだ。
周りのキツネたちもそれをひしひしと感じ取ったたのか、早くも激しいモッシュを始めている。

 

ステージ上の3人の調子も良いようだ。
曲が「ギミチョコ!!」「いいね! 」と続くにつれて3人ともに躍動し、
表情がより生き生きしていくのがわかる。
そしてそういった彼女たちの楽しげな様子に感化されたのだろう、
PITは早くも興奮の坩堝と化している。

 

SU-METALのソロ曲「Amore – 蒼星 -」も大変な盛り上がりだった。
BOH神のベースソロや途中のブレイクダウンでは一際大きな歓声が上がった。
続く「META!メタ太郎」のイントロが館内に響くと、それだけで胸が熱くなった。
ライブで観るのはまだ2度目だが、この曲はやはりライブでより映える。
「メタ」と叫び、周りのキツネたちと一緒になって「メタ太郎」と腕を振るのはなんとも痛快。
ドイツでこの曲がこんなにも受け入れられているのは少し意外な気がした。
そして次はお待ちかね、一番楽しみにしていた「Sis.Anger」が始まる。
怒涛のブラストビートに、脳内のドーパミンが過剰に分泌され、最高の高揚感に包まれる。
初めて生で観た喜びに体中の細胞という細胞が歓喜の声をあげている、そんな感覚だった。

 

そして次曲「Catch me if you can」では、今ツアーから始めた煽りがあった。
SU-METALの「make circle!」の掛け声にキツネたちは笑みを浮かべたまま従った。

 

リズム的にそれがしやすいからという理由で、僕は、この「Catch me if you can」、
そして「紅月 -アカツキ-」と「メギツネ」は、曲中、終始ヘドバンをしている。
だけどクイーンに回れと煽られれば、否応なく僕もそれに従わざるを得ない。
デカいキツネたちと共に、僕は何週もぐるぐると円を描いて走り続けた。
笑顔でハイタッチを交わす人たちがみな外国人ばかりというのもなかなかオツなものである。

 

続く「メギツネ」では、SU-METALの指示に従い、一度しゃがんでからのジャンプ。
“ アーユーレディ? ワン! ツー! ワン! ツー! スリー! Jump!”
そしてライブは熱狂を保ったままノンストップで「KARATE]へと続いていった。

 

ステージ上の3人は、終始楽しそうな笑みを浮かべていた。
SU-METALの声もよく出ている。
彼女はライブを完全に支配している。
曲ごとに客のノリを確かめる余裕もある。

 

MOAMETALとYUIMETALからも余裕は感じられた。
あれほど速く、激しく踊っているというのに、カウントは決して外さず、笑顔のレスも多い。
また、曲によって見せる表情の振り幅も相変わらず素晴らしかった。
笑顔は無邪気さを孕み、この「KARATE」などでは凛とした表情で客を釘づけにしていた。

 

やがて「KARATE」のEverybody Jump!! を初体験する。
アレンジも若干変わっており、得も言われぬ陶酔感に全身が侵される。
PITの狂乱具合といったら、まさに狂気の沙汰といった有り様。
周りのキツネたちと何度も体をぶつけたが、それはお互い様だ。
屈託のない笑みで目配せする行為がお詫びの代わりを果たしている。
とにかく開演からここまでずっとはしゃぐ声があちこちで飛び交っている。

 

ややああって「Road of Resistance」のイントロが流れ出すと、今日一番の歓声が上がった。
途中のシンガロングでは会場が一つとなって皆で大声で叫んだ。
続く「THE ONE」ではそれがより強固となり、演者と観客が THE ONE を示すことで幕を迎えた。
ライブが終了しても観客たちの興奮はしばらく鎮まることはなかったのだった。

 

床を踏みながらの「ツーガーベ」コールが始まるが、ケルンに続いて今回もこれにて終了となった。
「THE ONE」の最後、アウトロが流れる中で3人が挨拶をしたが、
曲が流れているので何を言っているのか詳しくは聞き取れなかった
どうも SEE YOU の代わりに また会いましょう 的なことを言っていたようだ。

 

会場の外に出ると、満面の笑みのキツネたちが今夜のライブを熱く語っていた。
世の中で一番「アツい」ものといえばBABYMETALのライブ。
僕の中では、それは不動だ。今夜のライブも熱すぎた。
昨年のベルリンのライブを軽く超えた。
気分がまだ高揚している僕は、それとなく周りのキツネたちに向かって日本語で叫び声を上げる。
「やっぱりBABYMETALのライブは熱いよな!」

 

何人かのキツネが、笑顔のまま、だけど口をポカーンと開けたままで僕の方を見た。
当たり前のことだが、何を言っているのかわからない、まさにそんな顔だ。
だから僕は、誰とはなしに、内容を少し変えてこう叫んだ。

 

「シューゾーナイッ! シューゾーナイッ!」

 

キツネのひとりが、それはどういう意味だ? 的なことを訊いてくる。
僕は人差し指を立てると「日本語で『熱い夜』という意味だ」と伝える。
「ホットギグ。ホットナイト。ジャパニーズ。イッツ、シューゾーナイッ!」
すると少し意味は通じたようで、そのキツネは一緒になって拳を突き上げ叫んでくれた。

 

「シューゾーナイッ! シューゾーナイッ!」

 

シュツットガルトの夜に響き渡る「シューゾーナイッ!」の叫び声。
僕は満足げにうなずくとやがて会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………。

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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