BABYMETAL 海外 フランクフルト ライブレポート

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1.

ここ数日、上司の頭の同じ場所に同じホコリが付着したままだ。
このままではヅラだということがそのうち周囲にバレてしまう。

 

このピンチを救わねばと思い、僕は横から上司の頭に強く息を吹きかけた。
その際、力み過ぎて少しばかり唾まで飛ばしてしまった。
結果、ホコリは無事に飛んでいったものの上司にこっぴどく怒られた。
くーーーっ、僕の気遣いも知らずにクソ上司め!

 

腹の立った僕は考える。
別にヅラであることをバカにしたわけじゃない。むしろヅラを擁護しようとしたのだ。
それなのにこの仕打ち。
しかも怒鳴られらあと、僕はハッキリと言い返すことができなかった。
我ながら情けなかった。
自分は弱い人間なんだと思い知らされ、とことん打ちひしがれた。
しかしそれにしても、この怒りを鎮めるにはいったいどうすればいいのだろうか……。

 

ううむ、こういうときは気分転換を図るに限る。
たとえば「一人旅」なんてどうだろう。
それを通じ、なんだか強い男になれるような気もする。昨日までの(弱い)自分にサヨナラ。

 

そう思った矢先、僕はすぐに思い立った。
旅といえばやはりあの場所だ。

 

「そうだ。京都へ行こう」

 

 

 

 

 

京都に向かったつもりがなぜかドイツに来てしまった。

荘厳なフランクフルト中央駅を眺めながら僕は思考を巡らせる。
もしやこれはキツネ様のお導きか?
そういえばBABYMETALのライブがこの地で行われる予定だったではないか。

 

日中は市内を散策してまわり、夕方、僕は地下鉄に乗ってライブハウスの最寄駅まで行く。
駅を出てから真っ直ぐグヴィンナー通りを進む。
少し歩くとライブハウス「Batschkapp」が視界に入ってくる。
時刻は午後16時前。すでに数十人の行列ができている。

 

当然ながら周りはほとんどが欧州人ばかりだった、といいたいところだが、
随分と日本人の姿がある。よく見かける顔が多い。4割くらいが日本人だろうか。
しかし開演時間前は大挙として現地の人が押し寄せてきたので、
最終的に9割以上(目視)が現地の人を含む欧州人ばかりとなった。
年齢層は青年から熟年の方まで幅広い。近隣諸国からも来ているようだ。
僕の網膜はカップルは認識できない仕様になっているから、残念ながらそれらの数は分からない。

 

それにしても欧米人は皆、体がデカい。
何を食ったらそんなにデカくなるのだろう。
きっと小さいときからデカかったはずだ。
小中学生の頃の体育祭の綱引き競技では体に縄をぐるぐると巻きつけて最後列にいたに違いない。

 

独り寡黙に列に並んでいると横から声をかけられた。
おまえは日本から来たのかと言っている。
「そうだ」と答えると、フランシスコ・ザビエルよろしく胸に両手を当てて「ワオ」と叫んだ。
「ワオ」と言われ、返答に困り、僕も「ワオ」と返す。
英語で訊ねてきたから国を訊くとドイツと答えた。
名前はニクラスだかニコラスだか言ってるが、面倒だからニコって呼ぶと了承してくれた。
しかし彼もいい体躯だ。二の腕の筋肉が隆起している。
思わず「君、いい体してるね。自衛隊に入らない?」 と声をかけそうになる。

 

5時半過ぎにゲートが開き、ハウス前まで移動する。
VIPカードを受け取り、クロークに荷物を預け、中に入る。
第一印象は狭い。
ドセンは避け、上手の前の方の場所を確保する。
最前中央はなるべく現地の人に占めてもらいたい。3人含め陣営もそれが本望だろう。

 

開演を待つまでの時間が意外と楽しい。
なぜならば観客のほとんどが目をキラキラ輝かせて幸せそうな顔をしているからだ。
その中には長髪タトゥーのガチメタラーも数多く含まれる。
ニヤニヤしている顔つきからは、ショーに対する期待感がこれでもかと滲み出ていた。

 

定刻になると「BABYMETAL」コールが発生した。
ジャンプして振り返ると会場は満員のようだった。
ただキャパ700人というのはどうも誤情報のようで、感覚的に1000人強はいるようだった。
最後尾を目視したわけではないので実際のところはわからないのだけれど。
多種多様なメタルTEEに身を包んだ大男連中は後方に固まっているように見受けられた。

 

やがて暗転すると、会場のあちこちから怒号のような歓声が沸いた。
BABYMETAL DEATHのイントロが流れ始めると歓声はより大きくなった。
ここフランクフルトの地に上品で可憐な三人の少女が舞い立つ。
さあ、異国のメイトたちよ。
人種を超えて一緒くたになって共に喜悦の声を大いに上げようではないか。

 

 

 

 

2.

セトリ

01 BABYMETAL DEATH  動画①
02 いいね!  動画①
03 ウ・キ・ウ・キ★ミッドナイト  動画①
– 神バンド -インストゥルメンタル-  動画①
04 悪夢の輪舞曲  動画①
05 おねだり大作戦  動画①
06 Catch me if you can  動画①
07 紅月 -アカツキ-  動画①
08 4の歌  動画①
09 メギツネ  動画① 動画②
10 ド・キ・ド・キ☆モーニング  動画①
11 ギミチョコ!!  動画①
12 イジメ、ダメ、ゼッタイ  動画①
(アンコール)
13 ヘドバンギャー!!  動画①
14 Road of Resistance  動画① 動画②

 

恐縮ながら1曲ごとのレポートは割愛させていただく。
ライブ全体を通しての日本と外国との違いについて主に記させていただければと思う。
短い動画は上記にリンクがあるので会場内の雰囲気はこちらで感じ取ってもらえれば幸いです。

 

ライブが始まると圧縮があったのだけど、センターではなかったのでそんなに激しくはなかった。
これはライブ中、終始感じたことだが、日本人だろうが異国の人だろうが、
ライブを愉しんでいるときのノリや表情は日本人のそれとなんら遜色はない。
あくまでも前方エリア限定の話ではあるけれど、大声で歌いながら心底楽しんでいる様子だった。

 

序盤のモッシュで随分右に流されてスピーカーの前まで来てしまったので、
音のバランスについて考えるのは止めた。
音圧はさほど感じないが大音量なので問題ないだろう。
終盤、藤岡神のギター音がまったく耳に入ってこなかったが仕方ない。

 

ギミチョコのコール&レスポンスでは、3人で「サンキュー」だけ披露した。
※「シンギン」はなかった。
本来はもっとヘドバンをするのだが、今日はステージに近いため、
問答無用に彼女たち3人を凝視することが多くなってしまった。
というより、すべてを忘れて、思わず見入ってしまうのだ。
小箱で距離が近いといつもそうなってしまう傾向は、今のところ相変わらず改善の余地はない。

 

3人とも終始楽しそうな笑みを浮かべていた。
ソロ曲を歌うときのSU-METALはまことに美しい。
口元をキュッと結び、凛とした横顔で、二重瞼までくっきり見えた。
ああ、美しい。本当に美しい。歌う姿も佇む姿もすべてが芸術作品のように美しい。

 

位置的に断定はできないが、声もよく出ているようだった。
「紅月」ではヘドバンをしていたのだが、
あまりの歌声の素晴らしさに途中でヘドバンを止めて見入ってしまうほどだった。
いやしかし、今日はやはり彼女の表情だ。
どんな表情をしているときもライブを完全に支配している。
客のノリを確かめながら、且つ肩の力を抜いて自分も楽しんでいる余裕を垣間見ることができた。

 

MOAMETALのアイコンタクトは相変わらずだった。
間近で見ていると本当にすごいと唸ってしまう。
よくもまあ、あれだけ表情をころころ変えながら蜘蛛手にレスポンスができるものだ。

 

YUIMETALも同じだった。
ダンスの上手さはさることながら、曲によって見せる表情の振り幅に完全にやられてしまった。
笑顔は本当に少女のような無邪気さを孕み、IDZなどでは勇ましい表情で客を釘づけにしていた。

 

ドイツ語らしい「ツーガーベ」のアンコールのあと、
ふたたび「BABYMETAL」コールが始まる。

 

やがて「ヘドバンギャー!!」が始まり、「 Road of Resistance」で締める。
とにかくみんなどの曲も一緒に大声で歌っている。
それがまた発音の適当な日本語であるからどうにも可愛らしく思えて可笑しかった。

 

とにかくアツくて楽しかったライブが終了した。
全体を見渡したわけではないのではっきりとはいえないが、
やはり単独ライブに限っては、この地も問題ではなかったようだ。
ただ、まだ明日もあるので、2つ終えた時点で、ドイツ人の反応は個人的にまとめてみたいと思う。

 

しかしそれにしても、ドイツでのライブ前に降って沸いたウェンブリー情報。
METAL HAMMERのGOLDEN GODS AWARDの際に会場を下見していたから、
来年に行うことはある程度予想できてはいたけれど、
その情報が明らかになったときのインパクトはとてつもなくでかかった。
そしてさらに驚くべきことは、アルバムをまだ1枚しかリリースしていないのに、ということだ。
今後こういった日本人アーティストがでてくることはまったく想像できない。
詳細はおいおい調べるとして、今夜はそのことにもささやかながら祝杯をあげよう。

 

ライブが終了してからも僕はすぐにハウスから出ない。
とにかく飲み物とばかりにカウンターに急行し、コーラを注文する。
少し休憩すると体力が回復したので立ち上がる。
そこでふと、再びニコに遭遇した。
興奮がまだ収まらないのか、BABYMETALサイコー! といったようなことを何度も叫んでいる。
彼はまったく疲れていない様子でピンピンしていた。
僕は思わず、「ユー、アー、ストロングマンネー」と感嘆の声をあげる。
意味が通じたのだろう、彼はにこりと微笑むと太い腕に力コブを作ってみせた。

 

外で連れが待ってるからそこまで一緒に行こう。
ニコが言うので一緒に外に出た。
上機嫌な彼はしきりに「スタッカー、スタッカー」と叫んでいた。
自分は“ 強い男 ”なんだと言っているのだろうか。
ややあって彼は僕に訊ねてきた。
日本語でそれは何て言うんだと彼は言っているようだった。

 

日本語だとそれは「強い男」だ。
すぐにそう答えてもよかった。
しかしそのとき、ふと脳裏にあることが思い出された。
以前にニコニコ生放送でBOH神は、海外を遠征している最中、
フォトグラファー、ダナ・ディストーションの助手であるジョエルに、
面白い日本語を教えてはそれを言わせて楽しんでいると言っていた。
そのことを思い出した僕は、しばし逡巡したのち、彼に対してこう言った。

 

「トノガタァー、ゼツリーン!」

 

ニコがパッと表情を輝かせる。
繰り返し僕に発音を訊ねてくる。
そして嬉々とした表情のまま、彼は何度もそれを繰り返し叫んだ。
「トノガッタトノガッタァー、ゼッツリーン! イエアァァァァァ!」

 

僕は彼に合わせて悪乗りする。
「イエーイ! ユーアー、トノガタゼツリーン! ナンバーワーン!」

 

「殿方」に「絶倫」。
「強い男」という意味において、たぶんこれも間違ってはいないと思う。
喜びを爆発させる彼とハイタッチを交わすと、僕も少しだけ「強い男」になった気がした。
フランクフルトの夜空にいつまでも響き渡るニコの声。
僕は満足げな笑みを残し、やがて会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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